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ヤブ田玄白
ヤブ田玄白
novelistID. 32390
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通勤は戦いだ

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 今朝も大きな駅に電車がついたとき、全神経を集中していた後ろの席の動きに反応して、私は素早く着席できた。

 ところがである。
私が腰を下ろすと、隣の男は膝の上のカバンのヒモを力をこめて引っ張った。
ヒモの先に私のお尻が触ったことが不快らしかった。
私はお尻がすりむけるかと思った。
〈そんなに邪けんにしなくても、そっと引っ張ればいいのに〉と思った。
でも、自分の大切にしているカバンのヒモが他人の尻に敷かれたのは不愉快だったのだろう。

 私は素直に、
「すみません、ごめんなさい」と謝った。
人間はたとえ、古ぼけたカバンの汚く汚れた紐でさえ、他人に触られると不快な思いになるのだ。
持ち物は自分と同一化されるのだろう。
作品名:通勤は戦いだ 作家名:ヤブ田玄白