小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

「猫」

INDEX|10ページ/20ページ|

次のページ前のページ
 

10



集合住宅(アパート)の外階段
二階の角部屋(自室)目指し足を踏み出した
少女は思い出したのか、咄嗟(とっさ)に見上げる

外階段の天辺(てっぺん)
其処(そこ)に座り込む「影」の姿はない

気が抜けたのも束(つか)の間
買い物袋を提(さ)げた少年が背後から追い越して行く

案の定、少年の行動は頗(すこぶ)る心臓に悪い

彼(あ)の後、身支度を済ませた少女は
二度寝を噛(か)ます少年に恨めしそうな顔を向けて出勤した

自室の「鍵」
二本の内、保管用の「鍵」を置いていく

『厄介(やっかい)だ』
『厄介(やっかい)だが其(そ)れ以上に面倒臭い』少年の事だ

「同棲」だが
「同居」だがの話し合いの決着が着かない以上
「片田舎」に帰る気はないのだろう、とは分かっていたが

自室の「鍵」を置いた結果
小売店(コンビニエンスストア)ではなく市場(スーパー)に
買い出しに行くとは思わなかった

然(そ)うして窺見(うかがいみる)、買い物袋

抑(そもそも)、少年にとって料理 等(など)
家庭科の授業以外、触れる機会はなかった筈(はず)なのに?
思う少女は当然、知らない

「上京する以上」と、前置きした少年は
肝っ玉母さん宜(よろ)しくの母親から「おふくろの味」を習っていた

「何、作るの?」

安定の無視(スルー)
溜息も出ない少女は外階段を先に行く
少年が提(さ)げた買い物袋を覗き込み、俄(にわ)か探偵並みに推理する

先(ま)ずは買い物袋越しからも分かる、調味料の容器

「味醂(みりん)と、日本酒?」

「お前ん所(とこ)、醤油(しょうゆ)と砂糖しかない」

失敬(しっけい)な、マヨネーズもケチャップもある

「上京する以上」と、前置きされた少女は
母親に渋渋(しぶしぶ)、「おふくろの味」を習うが殆(ほとん)どしていない

「じゃなくて日本酒?、料理酒じゃなくて?」

実家の母親は「日本酒」を愛用していたが
其(そ)れは

「日本酒なら(僕が)飲める」

然(そ)うだ
然(そ)うだ、祖父の日本酒を拝借していたからだ

然(そ)うして気が付く

然(そ)うだ
然(そ)うだ、民法改正(令和四年四月)で
成人年齢が引き上げられた結果、諸諸(もろもろ)の事が可能になった

借入金(ローン)然(しか)り
携帯電話、賃貸物件の契約が出来るようになった

自分も大人しく高校卒業 迄(まで)待てば
母親に要(い)らぬ苦労を掛けずに済んだのかも知れない

其(そ)れでも自分が「片田舎」に居続ける事は無理だった

彼(あ)れが限界
彼(あ)れ以上は無理だった

是又(これまた)、溜息も出ない
少女は外階段を先に行く少年の背中に話し掛ける

民法改正(令和四年四月)で
成人年齢が引き上げられた結果、諸諸(もろもろ)の事が可能になった

だが、不可能な事もある

「飲酒、喫煙は」

途端(とたん)、鼻で笑う
少年が振り返りもせず「祖父(じい)さんに言え」と、零(こぼ)す

(畑仕事)手伝い後(ご)
「目出度(めでた)い目出度(めでた)い」と、上機嫌に繰り返しては
ぐい吞みを突き付ける祖父相手に生憎(あいにく)、自分には拒否権はない

少年の言葉に少女は手拭(てぬぐ)いを頬被(ほおかぶ)りした
(少年の)祖父の、日に焼けた顔を思い浮かべる

言われてみれば畑仕事終わりに出会う
(少年の)祖父は「目出度(めでた)い目出度(めでた)い」と呵呵(かか)笑いながら
一升瓶片手に(少女の)祖父と酒と酌(く)み交わす

二人共、ザル酒 所(どころ)かクワ酒の如(ごと)く飲んでいた気がする

然(そ)うして再び窺見(うかがいみる)、買い物袋

日本酒は良いけど
「味醂(みりん)」は如何(どう)する?

等(など)と、覗き込んだ瞬間に捉(とら)えた

「玉葱」
「人参」
「馬鈴薯(じゃがいも)」

成(な)る程、此(こ)れだけでは
咖喱(カレー)、細底幼(シチュー)と選択肢はあるが
加えて糸 蒟蒻(こんにゃく)、絹莢(きぬさや)とくればもう答えは決まっている

「肉じゃが、好き」

満足げに推理の結果を口にする
少女が「でも、お肉は」と、言い掛けて俯(うつむ)き口 籠(ごも)る

少年が調理する以上、手出しも口出しも御法度だ
買い物袋の中に埋もれた「肉」が何の「肉」であろうが異論はない

何時(いつ)の間にか立ち止まる
其(そ)の背中に顔面を突っ込む少女に少年が答えた

「知ってる」

「知ってる」とは此(こ)れ如何(いか)に?

不思議そうな顔をする少女を余所(よそ)に
当然、肩を並べる事なく外階段を上(のぼ)り出す

何時(いつ)かは並んで歩ける日が来るのだろうか?

不覚にも思うが自分達は「友達」でも「恋人同士」でもない
唯(ただ)の「幼馴染」に過ぎない、と思い直して少年の後を付いて行く

作品名:「猫」 作家名:七星瓢虫