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「猫」

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『然(そ)うして朝焼けに色 付(つ)く』
『御(おん)襤褸(ぼろ)駅舎から「都会」に行く電車に乗った』

『流石(さすが)に気が付かなかった筈(はず)だ』

屹度(きっと)、お前が然(そ)う思うのも無理はない

お前が玄関 引戸(ひきど)を引き開けた時は
お前の母ちゃんと一緒に庭先の植込みに隠れて見ていた

お袋には「引き留めろ!」と、焚き付けられたが
お前の母ちゃんには「見送ってあげて」と、お願いされた

其(そ)れでもお前の背中は
引き留めて欲しそうにも見送って欲しそうにも見えない

現(げん)に「見送ってあげて」と、自分にお願いした
お前の母ちゃんは自分と一緒に庭先の植込みに隠れている

其(そ)の矛盾に気が付いたのか
自分の着ていた、パーカーのフードを被(かぶ)せるや否(いな)や
「見付からずに」と、付け足した

流石(さすが)にお前の母ちゃん相手に無言は有り得ない
なので、自分は大きく頷(うなず)いた

一人で決めて
一人で決めたお前の背中を黙って見送る事にする

なので、何時(いつ)ものようにお前の後を付けて(お巡りさん、此奴(こいつ)です!)

お前が校舎裏の竹林が唐突(とうとつ)に揺れたのを
「猫」かと思ったのも束(つか)の間、本当に野良猫の「三毛(みけ)」だった時は

竹林でうっかり鉢合わせした「三毛(みけ)」に
何時(いつ)ものように猫缶を強請(ねだ)られて喉(のど)を鳴らす前に
抱き上げてお前の前に放り出した(悪い、三毛(みけ))

知らず知らず立ち止まり
知らず知らず振り返る其処(そこ)に自分の姿がなかったのは当然だ

自分は校舎裏の竹林を
駅舎方向に向けて突っ走り先回りした

『然(そ)うして朝焼けに色 付(つ)く』
『御(おん)襤褸(ぼろ)駅舎から「都会」に行く電車に乗った』

お前を見送った

薄薄(うすうす)?
否(いや)、端(はな)から分かっていた

お前が此(こ)の場所を好きじゃない事は分かっていた
お前が此(こ)の場所を置いて、出て行く事は分かっていた

其(そ)れならば其(そ)れで良い
其(そ)れならばお前の後を付いて行けば良いだけの話し

「今」じゃない
其(そ)れは「今」じゃない

其(そ)の「今」が来る迄(まで)、自分もお前のように頑張ろう

深夜を越えても
お前の部屋の電灯が消えない日が幾(いく)つもあった事を思い出す

加えて今 迄(まで)以上に祖父(畑仕事)の手伝い(小遣い稼ぎ)をしよう
軍資金は幾(いく)らあっても困らない

一体、何度目なのか
溜息を吐(つ)く背中越し、お前の寝息が耳に付く

自分の背中に、背中を付けて眠る
お前と違って自分は一睡(いっすい)も出来なかった

作品名:「猫」 作家名:七星瓢虫