小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

着地点での記憶の行方

INDEX|27ページ/27ページ|

前のページ
 

「あなたにとって、ここから私との人生が始まると思っているのかも知れないけど、こちらの世界では、あなたと私はずっと前から知り合いで、幼馴染の結婚ということになっているのよ」
 とあすなはいう。
「じゃあ、僕たちは結婚したということ? どうして君はそのことを知っているんだい?」
「だって、私は未来から来たのよ。これから生きるはずの未来を知っている。でも、それがすべて正しいというわけではない。さっきも言ったように、時空を超えるのだから、それなりのリスクはある。この五年という歳月は、時空を超えたことでの、想定性理論的なリスクであって、当然予見できる想定内のことなの。あなたは、今は時空を超えたのを覚えているけど、私と一緒に、次第に忘れていくことになるのよ。だから、今の状況を一番把握しているのは、この私、未来から過去を見ることができるからね。もちろん、資料を参考にしただけだけど。でも、それは過去から繋がっている私の記憶がそうさせたの。未来で私が言ったように、こっちの時代に私がきたことで、向こうの時代に繋がる私は消えてしまったの。だから、あなたも最初に未来に来た時、過去で繋がっていたあなたの存在はいったん消えた。でも、未来から過去に戻って、今こうやって存在しているので、未来に行ったあなたも消えることになるの。戻ってきたからと言って、過去のあなたはいない。戻る場所もない。だから、ここから、あなたの過去が初めて作られることになる。その時に私の存在も新しく生まれるの。そのために歴史も塗り替えられた。でも、あなたが未来に行ったことには変わりない。その成果がなくなってしまうのは、本末転倒なのよ。だから、あなたが未来に存在した理由がなければいけない。そのために、あなたはこれからの人生を生きることになるの。そして、それを達成してくれるのが、国立さんということになるのよ」
 とあすなは言った。
「じゃあ、国立さんというのは、未来の自分ということになるんですか?」
「ええ、そうです。あなたが過去から未来にいって、国立さんと話をする。国立さんは、今からあなたの記憶が消えていくことで、すっかり自分が未来に来たことを忘れてしまっている。でも、あなたの存在から、自分が何をすべきかを思い出し、行動に移ることになるのよ」
「じゃあ、さくらさんというのは、どういう存在なんですか?」
「さくらは、私たちの娘になるのよ」
 とあすながいうと、
「えっ? じゃあ、親子ということを知らずに……」
「そこは心配しなくていい。あなたは倫理や道徳を考えているのかも知れないけど、実際にあなたが未来に行って行ったことは、そんなことよりももっと大切なことなの。そもそも、親子だからって何だってことなのよ。私は親子で結婚したり、近親相姦などというものを悪いことだとは思わない。血がまじりあうことで、障害者が生まれたりするとかいう話があるけど、どこまで信憑性があるんでしょうね? 昔から言われていることなので、科学的、医学的な根拠なんてないでしょう? それこそ未来人が過去に行って、医学的根拠を示したのかしらね?」
 と、あすなは、笑いながら言ったが、果たして、この笑いは、本当に笑ってすまされることなのだろうか? 本当に未来人がタイムマシンで、古代人に、
「近親相姦が悪い」
 と教えたのだろうか?
 ただ、歴史的に考えて、天皇家であったり、他の国などの王室でも、近親相姦によって続いている王朝もあるわけで、言われていることと、史実とは違っている。
 そう思うと、
「これも、歴史のねじれのようなものと考えればいいのだろうか?」
 と感じた、高橋だった。
「記憶がどんどん薄れていく気がしてきたな」
 というと、
「いよいよ、私たちもこの時代の住人としてこれからを生きていくことになるのね?」
 とあすなは言った。
「これからもよろしくね」
 という言葉だけが、消えゆく意識の中で、よみがえってくるのであった……。

                 (  完  )



94




作品名:着地点での記憶の行方 作家名:森本晃次