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「やっぱ、無理があったみたい」(掌編集~今月のイラスト~)

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「おとといからだけどね」
「どこで?」
「ガールズ・バー」
「ガールズ・バー?」
「そ、ガールズ・バー、知らない?」
「一応知ってるけど……」
「誤解されないために言っとくけど風俗じゃないよ、カウンターを挟んでお酒出したり話し相手になったりするだけ、露出度の高い衣装とか着せられる店もあるみたいだけど、ウチは健全だと思うよ、この服、制服だし」
「あ、そうなんだ」
「まあスカート短いから脚とか胸元とか見られるし、棚からボトル出す時はお尻見られてるんだろうけどね、お客さんの隣に座ったり触られたりはナシ、一応バーテンってことになってるからね……まだカクテルの作り方とか先輩に教わりながらやってるけど」
「へぇ……」
「でも時給はコンビニの倍以上貰えるんだ、あたし資格とかスキルとか持ってるわけじゃないしね、短いスカートは高校時代から穿いてるし、見られるの嫌だったらそんな恰好してないわけじゃない?」
「まあ、そうかも……優香はスタイル良いもんね」
「女の武器使うってちょっとズルい気がしないでもないんだけどさ、自活のためにはそれっきゃないと考えれば、まあオッケーだよね、ま、さすがに風俗はカンベンだけどさ」
「ふぅん……なんかカッコいいよ」
「アリガト、そう言ってもらえると嬉しいよ」
「でも……問題はないの? ガールズ・バーでバイトするって」
「学校に知られてもってこと? 大丈夫、学生課に確認したから……風俗だとさすがにマズいらしいけどガールズ・バーはギリギリセーフだって、二十歳になるまでは勧められても飲んじゃダメとは釘刺されたけどね」
 そう言って笑う優香は輝いて見えた……。

▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽

 その日以来、優香とは特別に親しくしてる、優香も『親友』と呼んでくれているし。
 まあ、キャンパスでは優香は目立つから連れ立って歩いていると振り返られる。
 はっきり言って『えっ? ギャル?』って視線なんだけど、私は優香がしっかり自立しているって知っているので全然気にならなかった、というよりわたしは目立たない存在なので却って嬉しいくらい。
 その後に出来た友達に優香のことを話すと、ガールズ・バーのくだりで一瞬引かれるんだけど、奨学金を借りて仕送りなしでやっていることを話すと『すごいね!』ってなる、まあそれなりにレベルが揃っているから実情を知れば優香を色眼鏡で見ることもないんだよね。
 そうやって優香もキャンパスに溶け込んで行ったよ。

 一方で優香にはバイト仲間の交流もあるんだよね、そっちの方にはあたしはちょっと馴染みにくい感じ。
 いろんな事情でお金が必要で勤めている娘もいるけれど、遊ぶお金欲しさで勤めている娘ももちろんいるわけで、やっぱりそんな娘は大抵思いっきりギャルしてる。
 わたしは……小さい頃からずっと『本をたくさん読む大人しくて真面目ないい子』で通って来たし、そんな自分に何の疑問も不満も抱いて来なかったんだけど、優香と仲良くなってその交流関係に踏み入れてみると、自分が通って来た道はまっすぐで平坦で面白味がないものだったなぁって思っちゃう。
 親や周囲の大人が敷いたレールとまでは言わないけど、指差されたレールの上を何の考えもなしに進んで来ただけだったんじゃないかって……。

▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽

「優子、どうしたの? その髪」
「変? やっぱり似合わない?」
「そんなこと……ないけど……」
 夏休みを目前にしたある日、わたしは思い切って髪を明るい茶色に染めてみたの。
 親はもちろん周囲の大人も友達もびっくりしてたし、優香も例外じゃなかった。
「ずっと黒髪だったから飽きちゃっただけだよ」
 わたしはそう言ったけど、本当は変わってみたかったんだ、周囲に『優子にもこんな一面があったんだ』って思って欲しかった。
『似合わない』ってはっきり言って来る人はいなかったけど、一番似合わないって思ってるのは自分だったのかも……。
 逆に『似合う、似合う』って言ってくれたのはガールズ・バーのグループ。
 それまでは彼女たちと一緒にいても私だけ浮いているって感じてたからなんだか馴染めた気がして、日が経ってくると自分でも茶髪に違和感がなくなって来てた。
 そうやって彼女たちと交流して一緒に遊んだりもするようになって来たの。
 ひと夏をそうやって過ごして、自分でも『変われた』って思ってた。

 でもね……。
 やっぱりちょっと無理があったみたい、ううん、髪の色ばかりじゃなくて彼女たちに溶け込もうとしていることが。
 わたしもアルバイトしてお小遣いは自分で稼ぐようにしてたけど、やっぱりコンビニやファーストフード止まりなんだよね、ガールズ・バーはおろか居酒屋の店員に応募する勇気もなかった。
 相変わらず親元で暮らしていたし、学費も出してもらってた。
 どうしても『良い子』から抜け出せなかったんだ、精一杯背伸びしたつもりでいてもね。
 だんだん苦しくなって来るのが自分でもわかってた、わたしには親元を飛び出す勇気もなければ自分で生活費から何から稼ぎ出そうって心構えも持てなかったから。
 それなのに『それっぽく』振舞おうとするのはなんか違うんじゃないかって……。
 もちろん遊ぶお金欲しさにガールズ・バー勤めをするなんてこともね。

▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽

「優子……やっぱり優子にはその方が似合うよ」
 夏休みが終わってキャンパスに戻る時、私は元の黒髪に戻してた、それを見た優香はなんだかほっとしたようにそう言ってくれた。
「優香みたいに自立してみたいと思ったし、外見的にも自分を主張してみたいって思ったんだけど、やっぱ無理があったみたい」
「うん、無理しなくていいよ……あのね、あたしは優子みたいに素直でいられないんだ、ああしなさいこうしなさいって言われると『何でよ』ってなっちゃう、だから髪を染めてそう言う仲間と付き合って来たし、親元からも飛び出したんだよね、それでも生活しなくちゃいけないから無理して働いてるんだよ、素直じゃないから突っ張るしかないわけ……あたしは素直で自然体でいられる優子が羨ましいんだ、だから優子と仲良くしてるし、一緒にいるとなんかホッとするって言うか身構えないでいられるんだ、正直言うとね、優子は優子なんだから優子らしくしてて欲しかったんだ」
「やっぱ茶髪は似合わなかった?」
「う~ん、可愛かったと思うよ、でもね、やっぱり優子らしくないな、どこか無理してるなって思って、それが自分のせいかもって思うとちょっと心苦しい気がしてたんだ」
「そっか……私はこれでいいんだね」
「そう思う」