醜女と野獣
野獣男は娘を城内に招き入れました。大きな扉が開くと、
「ようこそお越しくださいました」
どこかから声がしましたが、誰もいません。
「どなた? 今声をかけてくださったのは?」
娘はキョロキョロ辺りを見渡しましたが、広いエントランスホールには、自分と野獣男以外、誰の姿も見当たりませんでした。
「ほほほほほ、こちらでございます」
娘の横で声をかけたのは、背の高い木製のコート掛けでした。しかも、丁寧にお辞儀をして言ったのです。
「え? あなたは何者なの?」
「私はこの城の執事でございます」
コート掛けは、立派な態度でそう言いました。
「あららら、お客様とは珍しい」
そう言ったのは、大きな古時計でした。
娘は目をぱちくりしながら、辺りを見回すと、そこかしこの家具や食器が、動きながらおしゃべりしているではありませんか。
「これは一体どういう事?」
娘は野獣男に聞きました。
「みんな、悪い魔法使いに姿を変えられてしまったのだ」
そのお城の数々の調度品たちは、このブサイクな娘を丁重に持てなしました・・・・・・
(このシーンについては、ディ〇ニー作品『美〇と野獣』を参照されてもいいでしょう)
やがて二人は仲良くなりました。野獣の顔をした城主は、自分に嫌悪感を抱かず接する、ブサイクな娘に親近感を持ちました。また彼女も、醜い自分を忌み嫌わず接してくれる、恐ろしい野獣の姿をした城主に安心感を得ました。日が経つにつれ、二人は心から愛し合い始めていました。
そこへ魔法使いがやって来ました。以前とは打って変わり、楽しそうな声がお城から聞こえて来たからです。
「おやおや、これはどういうことだい!?」
魔法使いの女は年甲斐もなく、この城主に思いを寄せていましたが、性格が悪く、城主からは嫌われていました。そしてその腹いせに、その城主を呪いの魔法で、本来とは全く反対の姿に変えてしまっていたのです。
「魔女め! もう私には、お前を恐れる理由などない!」
「何を言う!? お前は私を愛するしか、元の姿に戻る方法はないのだぞ!」