醜女と野獣
娘はその大男を見上げました。その顔は、まるでクマとライオンを足したような毛むくじゃらで、頭には羊のように太く大きな角が、腰まで伸びる長い髪の毛から突き出していたのです。さすがの醜女(ブス)でも「きゃーっ!」とブサイクな顔を更に歪めて叫びました。
「何をしに来た!」
野獣のようなその男は、怒鳴るように娘に言いました。
「私は旅の者です。村に泊めてくれる宿がなく、野宿できる場所を探していたのです」
娘は恐るおそる、そう言いました。
「バカ者! 森には危険なオオカミがいるのを知らないのか!」
恐怖におののき、娘は顔を上げることが出来ません。男はさらに大きな声で、
「魔女に見つかったら、ワシのように恐ろしい魔法をかけられてしまうのだぞ!」
彼女はやっと顔を上げて、野獣男の顔を見ました。
「私など、どうなっても誰も気にしないわ!」
野獣男は一瞬言葉に詰まりました。彼女の言葉に返答できなかったのではありません。そうです。彼女の顔をまじまじと見て、あまりのブサイクさに言葉を失ってしまったのです。
「お、お前は・・・」
「はい。私は醜い女です」
「いや、そんな顔など、ワシの醜さに比べればなんでもない」
「いいえ、あなたは見た目を嘆く必要などないわ」
「お前はワシが怖くないのか?」
「あなたは優しく勇敢な方です。こんな私をオオカミから助けてくださいました」
今までにも、この娘に「自分の醜い容姿を卑下する必要などない」と言ってくれる人は、僅かながらいました。でも本心でそう思って、娘のことを助けてくれた人は、一人もいなかったのです。でもこの野獣男は違いました。彼女はそれが嬉しかったのです。
一方、野獣男にはこのブサイクな娘が、どんな人生を歩んで来たか想像がつきました。それは自分の境遇と似ていると感じたのです。
「私をこのお城に泊めてくださいませんか?」
「・・・外は危ない。今夜は城に泊って行くといい。そのロバも手当して、厩舎で休ませよう。干し草くらいならいくらでもある」
野獣男は庭の隅の馬小屋に、娘とロバを連れて行きました。
「このお城に馬はいないのですか?」
「馬ばかりか、この城にはもう、人は一人もおらん」
「では、私に料理や掃除、洗濯をさせていただけませんか?」
「その必要はない」
「では、身の回りのお世話は、誰がされているのですか?」
「見せてやろう」