醜女と野獣
やがて雪が降りだしました。早く暖かい場所を見つけないと、娘は凍えてしまいます。雪のかからない大きな岩の下にロバが座りました。
「僕が風よけになってあげるよ」
娘はそこで焚火をしようと、周囲の枯れ枝を集めて火を点けていると、突然ロバが暴れ出しました。彼女はそのロバをなだめようと、首を撫でましたが、一向にその興奮は治まりません。
「ロバさん、どうしたの?」
そして娘は、周囲の異変に気が付きました。知らないうちに、オオカミたちに取り囲まれていたのです。
オオカミは低いうなり声を上げながら、彼女に少しずつ迫りました。
「近寄らないで! 私のような醜い女のことは放っておいて!」
するとオオカミは言いました。
「醜いなんて自分を蔑む必要などないよ。だってお前は、うまそうな肉なんだから」
例え盗賊に捕まっても、どんな野蛮な男たちに襲われても、醜い彼女の顔を見れば、誰も手を出しませんでした。でも今回の相手はオオカミです。彼女の容姿など関係ありません。
彼女は火の点いた枝を持って、オオカミたちに立ち向かいました。しかしオオカミは焚火の火など恐れもせず、娘めがけて跳びかかって来ました。彼女が炎を相手に投げつけると、その瞬間、ロバは娘を背に担ぎ、一目散に走りだしたのです。一瞬ひるんだオオカミたちも、そのロバの後を追いました。
ロバは娘を乗せて全力で走りました。
「ロバさん、がんばって! もっと速く、もっと速く!」
娘は振り落とされまいと、必死にそのたてがみにしがみ付き、ロバに声をかけ続けました。しかしロバの脚はそれほど速くはありません。オオカミの群れは吠えながら、すぐにロバに追いつきました。やがてロバの体力がなくなり、オオカミたちがその足に嚙みつきました。それでもロバは必死に走りました。
突然森が開け、目の前に大きな門が現れました。知らぬ間に、あの古城に辿り着いてしまったのです。するとお城の中から何者かが「ガオーーーーーー!」と叫びました。その声は遠く離れた村にまで響くほどです。
そこでオオカミは追跡の足を止めました。厳重に閉じられた門の前で、娘はロバから降りて、その門を叩きました。
「助けてください! この門を開けてください!」
そう叫ぶと、門がジリジリと音を立てて、ゆっくりと開きました。そしてその中から一人の大男が跳び出して来て、オオカミに言いました。
「ガオーーー!!! 森へ帰れ! さもないと食ってしまうぞ!」
その姿を見て、オオカミたちは早々に退散して行きました。