醜女と野獣
醜女と野獣
むか~し昔、一人の娘がある村を訪れました。ロバを一頭だけお供に連れて、彼女はたった一人で旅をしていました。
か弱い女の一人旅がどれほど危険であるか、誰もが承知しています。彼女は剣術に優れているわけでもなく、野蛮な男たちから身を守る術など持ち合わせていませんでした。それでも一人で旅ができる理由、それは誰からも相手にされない・・・世界一の醜女(ブス)だったからなのです。
「ロバさん。疲れたわね。どこか泊まれるところがあるといいんだけど」
「そうだね。今日は寒いから暖かい宿を探そうよ」
娘とロバは仲良しでした。ずっと一緒に旅をしてきましたが、それは決して楽しい道中ではありませんでした。ロバは道に生えた草を食べますが、娘はあまりお金がないので、宿にお情けで泊めて貰えた時しか、パンを食べられませんでした。だからなるべく、森の木の実を探しながら歩いています。
村の夕日が沈む方向には、深い森がありました。でもそこへ迷い込んでしまうと、無事、村に戻って来られる者はいませんでした。恐ろしいオオカミが住むからとか、高台がないので方向感覚を失うとも言われていましたが、それゆえ誰一人として、そこに足を踏み入れようとはしない森だったのです。
しかも昔からその森には、魔法使いが住んでいるとも言い伝えられていました。しかし村人が本当に恐れていたのは、その奥地の木々の上にそびえる塔が見えるお城でした。その古城から、まるで化け物のような慟哭が、たびたび聞こえていたからです。そしていつしかそこには、怪物が住んでいると噂されるようになっていました。
旅の娘は、村の宿を一軒一軒訪ねて回りました。でもどの宿にも泊めてもらえませんでした。それを見ていた老人が、その娘に歩み寄って聞きました。
「お前はどうして旅をしているのかね?」
「私には、安住の場所などないのです」
「それはどうしてか?」
「こんな醜い顔をした女を、近くに置いておきたい人なんていないでしょう」
「なんてことを言うのだ。娘さん、お前はまだ若いじゃないか。年老いたワシにはない希望があるよ」
そんなやり取りを飲み屋の前でしていると、たくましい男たちが出て来て言いました。
「汚いジジイ。店の前をうろつくんじゃねぇ! 何だこんなブスまでいるじゃないか! さっさとどこかに行ってしまえ!」
老人は小声で、
「あんな奴らより、お前さんの方がずっとましじゃ」
そう言って、悔しそうにその場を去りました。
みすぼらしく醜い彼女が、邪険に扱われるのはいつものことなので、娘は黙って歩き出しました。そして人目に付かない場所を求め、あの森に足を踏み入れてしまったのです。そのことに気付いた村の男たちは、娘を引き止めてやるでもなく、(死んでしまうだろうな)とその後姿を見送りながら笑うのでした。