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ヤブ田玄白
ヤブ田玄白
novelistID. 32390
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ちょっと高すぎたのではないか

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 オトーサンは、カバンを開けた。
中からポケットティッシュのようなのを取り出した。
それは「ウェットティッシュ」だった。

 袋の中からソーッと一枚取り出すと、周りを見ながらゆっくり開いて、顔にもっていった。
そして、おでこと目の周りを入念にぬぐった。
最後にほっぺたもぬぐった。気持よさそうである。

〈ヘエ〉と驚いていると、もう一度カバンに手を入れて、ビニール袋を取り出した。
ビニール袋の中には、やっぱりカンビールがあった。
〈オトーサン、今日はずいぶん気を持たせるなあ。顔なんか拭かないで一気に飲めばいいのに〉

 しかし今日の「カンビール」は、正式にいうとビールではなかった。
「金麦」(発泡酒)である。
「アサヒスーパードライ」と比べると、格下だ。

〈どうしたのだろう? やはり、生活に何か変化が起こったに違いない。給料の関係だろうか。「金麦」は「アサヒスーパードライ」よりだいぶ安い。ひょっとすると、オトーサンは定年退職して、正社員から非常勤になった可能性がある。しかし、家で飲ませてもらえない状態は、前と変わらないのだろう〉
それでも、オトーサンは一口一口美味しそうに飲んでいた。

 前回は「完全に負けました」と兜を脱いだ私だったが、今日は違う。
明日休みの人間になったからだ。
余裕をもって、オトーサンの寛ぐ姿を眺めることができた。