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記憶喪失と表裏

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 菜々美はまだよく分からなかった、
「だって、黒い鳥はすべてカラスだと言ってはいるんだけど、黒い鳥はすべてカラスだとは言っていないのよ。だから、九官鳥が黒くても問題ないということだね」
 というではないか。
「なるほど、そういうことか」
 何となく納得はしたが、いまいち話の内容が分からなかった菜々美だったが、今回のれいなの記憶が薄れて行く中で、どこか関連性があるように思えてならなかった。
 だが、それがどこから来るのか分からないというところもあり、気持ちの上では曖昧であった。
 次第に、れいなの記憶が薄れていっている中で、れいなを見ていて何かが発見できそうになるのだが、肝心なところで曖昧になってしまう。ある程度までは突き詰めているにも関わらず、結界なのか、シートに阻まれているのか、その先が見えてこない。
「これだけいろいろなことが頭に思い浮かんでくるのに、どうしたことなんだろう?」
 とは思う。
「記憶が薄れていってはいるんだけど、最初の勢いほどではないような気がするんだ。ある程度まで記憶の喪失が進むと、そこで下げ止まってしまうという感覚なんでしょうかね?」
 とれいなは感じているようだ。
 菜々美は、逆に今、いろいろなことが頭に浮かんできて、どんどん消えていく。それがまるでれいなの頭の中にあったことではないかと思うほどに、いろいろなことであった。
 だが、まったく繋がっていない突拍子もないというようなことではない。どこかで繋がっているようなのだが。そのつながりがどこから来るのか分からない。
 菜々美はそれを自分で書き留めた。そして、それをれいなに見せると、れいなも驚いて、
「それ、まさに私が思っていたことだわ」
 と言って、ふたりで、思い出しながら、脚本にしてみた。
「これって、お芝居にできればいいのにね」
 と最初に言ったのはれいなだった。
 だから、れいなに任せてみたのだが、
「意外といいかも知れない」
 と菜々美も思い、思い切って団長に脚本を見せた。
「これは面白いわね。脚本はれいなさんが書いたのね。そして、菜々美さんも同じ発想だったのね」
 と言われて、
「はい、そうです」
 というと、
「じゃあ、監督は菜々美さんがすればいい。分からないところとかは、私がフォローするから」
 ということで、菜々美が監督をすることになった。
 内容は、れいなの頭の中を夢という設定で描くものだが、芝居にしてみると、見ている人が皆、一瞬記憶を失う瞬間があるという。
 それがどこで失うのかはハッキリとはしないのだが、劇を見た後の皆さんの印象として、
「もう一人の自分が自分を支配している、そんな夢を見たような気がするんだ」
 というではないか、
 そして、最後にこう付け加えている、
「夢というのは、いつも曖昧だと思っていたけど、今日の芝居を見ると、本当に曖昧なのかが分からなくなるほど、演劇自体、曖昧だった。まるで、そこか肝心なところを大胆に省略しているかのように感じるんだ」
 と……。

                (  完  )



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作品名:記憶喪失と表裏 作家名:森本晃次