小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

八人の住人

INDEX|99ページ/152ページ|

次のページ前のページ
 

80話 死に至らしめかねない恐怖






こんばんは、五樹です。今日は、時子の状態と、彼女が見た夢の話、僕の状態について話します。


78話で、時子が「もう目覚めたくない」と念じて、あまり出てこなくなってしまったという話をしました。

ですが彼女は、それから一日経った時には、もうすっかり元通りの生活に戻ったのです。

起きて、コーヒーを飲んだら家事をして、休んでは落ち込んで、また力が貯まれば家事をして。

78話を読んだ人なら、それを聞いて、「そんな事をして大丈夫なのか」と感じるかもしれません。大丈夫ではありません。

時子は、少し余裕が出来ると、それを全て使い切ってしまおうとするのです。彼女は、すぐにも自分の理想の生活を実現したがるのです。


それから、昨日の朝、時子はとても怖い夢を見ていました。

夢の中は初め、学校の教室のようでしたが、時子はなぜか布団とシーツの上に座っていました。

時子は友人と音楽を聴いていましたが、授業の時間が迫ると、彼女は屋上でサボタージュをしに、階段へ向かいました。

階段は変な場所でした。行く手の天井がとても低かったり、階段が欠けていたりして、時子は、「進むのは危険だ」と肌で感じていました。

それでも構わずに彼女が屋上手前まで進むと、場所は元の布団の上に戻ってしまいました。時子はそこで、「ここはお母さんの胎内かもしれない」と直感で捉えました。

彼女は自分が恐怖する母親の事を思い出して怯えていましたが、「あと少しで屋上だから」とその先に手を伸ばすと、そこには、今にも破れそうに、外の光が透けている、背が低くて白い壁がありました。

その壁を見た途端、時子は「この先には見ちゃいけない物がある」と強く感じ、目を覆って叫び始めました。


目が覚めてから夢を振り返り、時子は、これが何の夢だったのか、しっかり分かったようです。

“外に生まれてきてはいけない”

“外には怖い事があるから、出てはいけない”

時子は、生まれた後の記憶を持ち、そして生まれる前の自分の記憶もいっしょくたにして、「痛い目に遭いたくなければ生まれてくるな」と自分に言い聞かせる為の夢だったのだと、後から振り返っていました。

夢の意味を正確に受け取る事は難しいですが、自分で確信が得られるなら、その通りなのでしょう。事実、時子は「生まれなければよかったのに」と、散々思わされてきました。


僕の話に移りましょう。

僕は最近、目覚めている時間を辛く感じるようになりました。

時子の抱えている、悲しみ、苦しみが、形のある疲労となって、僕にも被さってこようとしている。そんな気がするのです。

時子が苦しくなって僕に代わったのに、僕も苦しく感じて、時子に返してしまうという事が、頻繁に起こるようになりました。


亡くなった前のカウンセラーが、ずいぶん前にこんな話をしていました。

「時子さんはやっと“凍りつき”が解けたから、不安や恐怖を表現出来るようになったんです!凄く良い事なんですよ!」

その言葉通りに、恐怖の質量は変わっていなくても、彼女はそれに蓋をする事なく、自由に感じるようになりました。

それは、その恐怖を感じている人間を、殺しかねない物です。何せ、時子からすれば、全人類が「自分を虐げるはず」なのですから。

彼女は、母親から植え付けられた、「人間とは自分を虐げるのだ」とい価値観を、全ての人に適用して生きています。それはまだ変わっていません。

彼女が怯える事を始めたとするなら、今までに無い事ですから、僕にも影響があるかもしれません。

時子を守るのが本分である僕が逃げ腰になっていてはいけません。僕は前よりも生活に不安を感じていますが、時子がやっと自由に解放出来た事として、受け止めていきます。


お読み下さり有難うございました。状況が常に変化しますが、出来る事からやっていこうと思います。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎