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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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76話 カウンセリングルームにて・6






おはようございます、五樹です。


ここの所、僕達交代人格は割と代わる代わるに目覚め、主としては“弱々しい時子”が出ている事が多いです。

先週金曜日はカウンセリングでしたね。今日も、1週間しか空けずにカウンセリングです。

どうやら“弱々しい時子”は新しいカウンセラーを気に入ったのか、頼りにするために、頻繁に予約を入れたがるようになりました。


新しいカウンセラーは、古民家でのカウンセリングを行っており、立派な庭にはたくさんの木や草花が植わっています。

前回のカウンセリングでは、まだまだお互いの信頼関係を作り上げるための域から出なかったようです。

いつもの通りに、夫君は時子と並んで椅子に座り、正面にカウンセラーが座します。

「今のご気分はどうですか?100が緊張の最高度、50が平穏、それ以下が落ち込みだとすると…」

「えっと…95です!」

「それは…では、何か気持ちの落ち着く物を見たりしましょう。庭の方へ椅子を向けて、木や花でも見ますか?」

「そうしましょうか!わあ!杉の木が立派ですね!松も立派!」

きゃいきゃいと時子が騒いでいたのは、緊張しているからという理由もあったでしょう。カウンセラーは庭の木について質問をされたら答え、夫君も会話に参加して、3人で話していました。

時子は、木や草花がとても大好きです。だから彼女は、15分程経ってもう一度カウンセラーが心の度合いについて訊ねた時には、こう言いました。

「そうですね…そろそろ65です!」

「それは良かった。このように、心を平穏に戻してくれる物に、触れられるようにするといいですね。関節を回したり、歩いたりするのも、効きますよ」

そこで時子は、「うーん」と声を上げて考え込みます。

「どうしましたか?」

「いえ、私、今まで自分の状態が悪い時に、好きな物を眺めて回復させようとした事、あるんですけど…5分位で“変わらないな”って思って諦めちゃってたので…本当は時間が掛かるんだなーって思いまして…」

「そうですね。結構掛かるんです。ちょっと時間を取って頂けると、いいかと…」

まずは、カウンセリングルーム内で安心出来る時間を作り、その内に“カウンセリングルーム内は安全なんだ”と時子の頭に刷り込む。その後に、本格的に治療に入っていきます。前のカウンセリングルームでもそうでした。

カウンセラーを信頼するまでが長いのは、仕方ないかもしれません。カウンセリングというのは、大きく深く傷つき、人を信じる事が出来ずに苦しむ人の為ですから。

カウンセラーもその日、「ここを安全な場所にしましょう」と言いましたが、その時に時子は、急に僕の話を思い出したらしいのか、こう言いました。

「五樹さんが、「そこがカウンセリングルームという空間で、そこに居るのは信頼出来るカウンセラーなんだという意識が、治療を可能にする」、「カウンセラーは、その為にクライアントとの距離を縮めるのに苦労するだろう」といった話を小説に書いていたんです」

それを聴いたカウンセラーは、極まり悪そうに笑っていました。


さて、今日もカウンセリングですが、果たして本人がどれだけ表に出ていられるか、ですね。施術は主人格に施すのが一番効果が高いらしいので。

お読み下さいまして、有難うございました。少し前の話と繰り返しになってしまった部分もあり、すみません。また読みに来て下さると有難いです。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎