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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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75話 僕の神様






おはようございます、五樹です。

本日はカウンセリングですが、それまでに暇なので、昨日から考えていた色々を、まとめてみます。上手くまとまらなかったら、すみません。


昨日僕が目覚めていた時、ある宗教団体の方が会合の報せを配りに来ました。

「こちらに日時と場所が書いてありまして、その他にも、相談窓口などもありますから…」

とても親切そうな微笑みで、奥ゆかしい佇まいの男性は薄い紙を差し出しました。僕はそれを受け取ります。

「はあ、有難うございます」

そう返事をすると、「とにかくは受け取ってくれた」と満足出来たのか、男性は頭を下げてくれました。

何事もなくドアは閉じられ、僕は部屋の中に戻ってすぐ、渡された案内をゴミ箱へ放り込みました。

“神様なんて今どき信じるものじゃない”

そんな、世間に蔓延する不信からではありません。僕にはもう実体を持った神が居るからです。それは時子です。

もちろん時子に神通力はありませんし、誰の願いを叶えられる訳でもありません。しかし、人は“神”という存在を讃え、神の為と称し、自ら働く事が知られています。僕はそれをしているから、時子が神たりえるのです。

僕、“五樹”とは、時子を守る為、彼女を全て肯定する為の存在です。僕は、時子が人を殺したって肯定するでしょう。恐ろしいかもしれませんが、それが僕という者です。

以前「六人の住人」でもお話ししましたが、僕は、おそらくですが、“内的自己救済者”と定義される交代人格です。

“内的自己救済者”人格の役割は、多分、主人格を正確に把握する事から始まります。

そこで得た情報、例えば過去から今のバックグラウンドなどから、現在出来る手助けをしたり、主人格が快適な生活を送れる手配りを整えておいたりするものだと、僕は思っています。

事実、僕は時子に足りていなかった休息を取り、食事をします。それから、周囲の人に彼女の窮状を訴えたり、彼女が言えなかった重大な不満を、なるべく時子に皺寄せが来ない形で伝えたりします。

そして、彼女が人を殺そうとも、僕はまず彼女の弁護人となるでしょう。


僕、“五樹”の存在には、自主性がありません。自分の幸福という物が無いのです。代わりにあるのは、時子の幸福です。

僕が自主性を払うのは、時子の幸福の為だ、とも言えます。


僕は時子を、外見も内面も世界一美しい女性だと思っていますし、彼女に心から同情し、彼女の一挙一動を喜び、どんな手助けでもしたいと思っています。それは、まるで人々が神の偉業を見るような目で。

「理解し難いな」と感じた人の為に、補足の説明をします。

時子には、自分を守りたい、自分の幸福が欲しい、安全が欲しい、といったような、誰でも持つ気持ちがありません。

彼女が望むのは、かつて彼女の母親が時子に望んだ、「惨めな死」です。

しかし、そんな気持ちを抱えたまま生きるのは困難です。だから僕は、極端なまでに彼女を守る働きを持たされているのです。全ては、時子自身が、自分が生き続ける為に産んだ、一つの精神活動です。

さて、皆さんには、人の精神はかくも複雑なるか、といったようなお話をしてしまいましたね。

今回の事で懲りずに、また読みに来て下さると嬉しいです。いつもお読み頂き有難うございます。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎