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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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74話 悲劇的同情






こんにちは、五樹です。少し久しぶりですね。


近頃の僕達は、毎晩統合がほどけて、翌朝には元に戻って統合し終わっているような様子です。

やはり「統合した時子」にもどこかに無理が掛かっているらしいのです。彼女は自分のうつ状態に全く抵抗しないので、ほとんどろくな食事をしません。

「統合した時子」の食事は、林檎、ヨーグルト、コーンフレーク。その位です。品数も少なく、種類もとても限られています。決まった物ばかりを繰り返し食べるのも、うつ状態にありがちですね。

多分、それで時子の体が危機感を感じるのでしょう。眠る少し前になると、僕や桔梗を出す為に統合をほどき、僕達は食事をします。


昨晩、いつものように夜中に統合がほどけた時の話をしましょう。

昨晩ほどけた時には、まず僕が目覚めて、食事をしていました。その後「弱々しい主人格の時子」が目覚め、彼女は日付や時間を確認していました。

「弱々しい主人格の時子」からすると、統合している間の記憶は無いのですから、“近頃は夜中にしか目覚めない”となります。

なので、昨晩0時に目覚めた時は、“また夜中だから、夫とは話も出来ない”と彼女は落ち込み掛けました。でも、昨晩はちょうど夫君が夜中からの仕事だったので、しばらくは話をしていたようです。

でも、疲労や神経の緊張などでくたびれた時子は、桔梗に交代します。その後、夫君は仕事に出掛けました。


桔梗から交代した時子が気付いたのは、深夜2時頃でした。家には誰も居ません。

それで彼女は落ち込み始め、まずは不安発作を、それから、大きなフラッシュバックを起こしました。


彼女の一番大きなフラッシュバックは、もちろん母親の事です。ですが、それは恨みや怒りを含みません。大変に悲劇的な同情です。

彼女は心の中で、自分を責めていました。

14歳の時に自分が母親の家から逃げ出したから、母が孤独になったと。

母の苦しみを始終聞かされていてよく知っていたので、そんな人間が母から逃げ出すなんて、残酷な選択だと。

“私は、誰も私の声を聴く心配の無い所へ行ったら、「お母さんは悪くない!」って言っちゃうと思う。私達の関係は禍が連鎖しただけで、お母さんには私より大きな禍があったはず”

“その人の苦しみを一番よく知っている人が逃げ出すなんて、そんな残酷な話ってあるかな。だから、私は地獄でお母さんに会えるかもしれない。でも、もしや神様がお情けを下さって、お母さんを天国にお呼び下さるかな。そうなって欲しい”


気味が悪くなります。この子は母親から酷い虐待を受けていたはずです。なぜこんな事になるんでしょう?僕にはほとんど理解出来ません。

この子が逃げたのが残酷なのではありません。そこまで母を思ってくれる娘が逃げ出したくなる程、この子の母親が残酷だっただけの話です。

母親は、始終時子に向かって、「お前のような、価値のない、働きの無い人間は、死んでしまえ」と、「お前なんか産むんじゃなかった」と言い続けていました。そして、何をしても欠点をあげつらい、それを全て時子に着せて、罰しました。

時子は苦しみながらも、母親が歩んできた人生をよく聞いて理解する事で、自分の中に溜まる悲しみや怒りと折り合いを付けようとしていました。母親は、自分の人生がどんなに苦難に満ちていたかを、よく話していましたから。

でも、まだ12や13の子供に向かって、親が人生の苦悩を訴えるなんて、子供にとっては苦痛でしかありません。それが、毎日何時間も続いていたのです。


天国は等しく、善行を積んだ人間にしか門を開けません。まず間違いなくあの母親は入れません。まあ、僕の思想は天国や地獄に頼る事はないので、よく分かりませんが。

母親との関係にまつわる問題が解決されるのは、大分先になるでしょう。それはその時でいいと思います。

その後、フラッシュバックが治まった時には僕が目覚めて、布団で眠りました。

今朝も僕が表に出ていて、統合はされていません。かなり状態が悪いと言えます。こんな事は久しぶりです。今日は無理をせず休みます。


今日は少し長くなりましたね。お読み下さいまして、有難うございました。どうにも落ち着きませんが、時々読みに来て下さると嬉しいです。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎