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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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71話 恋しい恐怖






お久しぶりです、五樹です。今日も統合が一時ほどけました。


僕達は、今日の夕方までは統合していられました。ですが、統合した時子がふと「前はいつも不安だった」と感じた時、それはほどけてしまったのです。

それ以前に、今日、時子はTwitterに、こんな事を書き残していました。

「嘘をついていなければ構わないので、反撃はするかもしれないけど、目の前の人には、本当の事を言って欲しい」

こんな事は、前の「弱々しい時子」だったら、思い付きもしなかった事です。彼女は、自分が人を傷つけず、傷つけられないよう、嘘をつき続けるのに必死でした。


さて、目を覚ました「弱々しい時子」は、混乱して叔母に電話をするやら、強いフラッシュバックに陥るやら、本当に大変そうでした。その中で印象深い彼女の言葉を書いておきます。

「疎外して下さい。私を受け入れないで、どうして私は石打ちにあって死んでいないの」

これは、彼女の強いフラッシュバックです。学校でのいじめと家での虐待で、行き場なく常に痛めつけられていた頃のトラウマです。

「この世に五樹さんと私だけになったら、楽なのに」

えー、僕はこの台詞がとても嬉しかったのですが…僕自身はその為に努力している訳ではない、とだけ言っておきます。

「統合なんてしたくないよ…五樹さんが居なくなっちゃったら、私はどうやって生きていけばいいのか…」

この言葉を聴いた時に、僕はこう思いました。

“今の彼女は、自分を肯定する存在を必要としている”

それは、前に時子が持っていた、「誰も彼もが私を殺したがっている」という、病的な思い込みが払われた結果なのではないかと思いました。


現在、「弱々しい時子」は心中で眠っていて、僕は入浴後です。

眠る前、時子は「五樹さん、ホットケーキ作ってくれないかなあ」と言っていました。混乱すると、彼女はいつも甘い物を食べています。

残念ながら、薄力粉が無かったのでホットケーキは作れませんでしたが、フレンチトーストの仕込みを始め、残ったパンの耳はオーブンでラスクにしました。


僕達は今、不安定で、“統合”の状態を保っておくのは、まだまだ難しいようです。それに、時子自身が、恐怖や不安から離れる事に、まだ慣れていません。

いつもいつも彼女は恐怖に押し込められ、不安に駆られていた。ずーっとその状態で生きてきたんです。おいそれとやめられる物ではないし、やめたとしたら、違和感位は感じるでしょう。習慣として恋しがるかもしれません。

今回は、そうやって時子がフラッシュバックを恋しがったのではないかと思いました。あくまでこれは僕の感想ですが。

本日もお読み下さり、有難うございました。新しい日には、また新しい景色のあるものですね。また来て下さると、嬉しいです。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎