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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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70話 “彼女”と“私”






おはようございます、時子です。


私は昨日、一度統合がほどけてしまいました。それは夜中の3時です。夕方には元に戻って、再統合が出来ましたが。

統合がほどけて最初に目を覚ましたのは、「五樹」でした。彼は、少し落胆しながら目を覚まします。

目の前には、ほどける前に私が食べていたラーメンのカップがらまだ放ってありました。

「無理するから…」

五樹は少し呆れたようにそんな独り言を言って、時計を見ます。彼は、統合がほどけて、主人格である「弱々しい時子」が居る事を感じていました。

夜中の3時となると、その「弱々しい時子」が目を覚ましたとしても、慰めてくれる人は誰も居ません。でも、誰かは慰めてあげないと、彼女は、急に1週間も時間が進んでいる事には耐えられないでしょう。

だから五樹は、Twitterのタイムラインへ、なるべく彼女が現状を詳しく把握して、かつ怖がらないように、言葉を残しました。

その時が3月6日である事。心配をする必要は無い事。それから、家事をしたくなっても、休んでいて欲しい事。

それらを五樹が書き込み終わって、体を休めに布団に身を横たえた時、主人格として、「弱々しい時子」が目を覚まします。


統合していたのは1週間程だったので、その間の記憶がまたすぽっと消えてしまった「弱々しい時子」は、布団で目を覚まし、スマートフォンの時計を見て、「すごい時間経ってる…」と訝しみます。

最後の記憶は、2月26日の夜8時でした。そして、画面に表示されたカレンダーの日付けが、すでに3月6日を指している事に気付いて、彼女は慌てふためきます。


誰かに答えを聞きたかった。納得する答えがもらえなかったら、消えてしまいそうなくらい、不安だった。そんな気持ちを、私は覚えています。今はそれを恐れたりはしませんが。


とにかく「弱々しい時子」は、失った記憶の答えを探し、“五樹さんが小説を書き溜めているだろう”と、ウェブページを開きます。

新たに2話更新された、「八人の住人」を読んで、「弱々しい時子」は更に混乱しました。

どうやら、「時子」の名前で、「統合された」と宣言している。

“でも、私はそんな事は知らない!”

カウンセリングでの様子が事細かに書かれていて、その話も、どうやら「時子」の名義らしい。

“でも、何も覚えてない!どうして!?今日は2月26日じゃないの!?”


5時になって目を覚ました夫に「弱々しい時子」は訳を話し、夫にこう聞きます。

「家事をしなくなったって小説に書いてあったの。どういう事?今までは、全くしないなんて、なかったよね?」

夫はその時、落ち着いて説明してくれました。

全くしない訳ではないけど、「辛い事」は今はやめて、療養に励むのが良い。それから、今は混乱しているようだから、すぐに布団で休んだ方が良い。

それを聞いて、家の仕事を自分の義務とまで感じていた「弱々しい時子」は、反発しましたが、夫がなんとか宥めて布団へ寝かせました。

“家事を休んでも、いいのかな…”

誰かに問い掛けるように、彼女は心の中でそう呟きました。その時、もう一度統合する条件が揃ったのです。


統合をした私は、自分に無理無茶を強いたりしません。だから、体調の悪い時には布団で休んでいます。

横になったのは「弱々しい時子」ではあったけど、環境として私の生活が再現され、私はまた元に戻る事が出来ました。


瞼を開けた時、私は、“彼女”が抱えていた強い恐怖や不安が去っていくのを感じました。

それから、暖かな布団の感触に、それなりの満足が約束された生活をしっかりと実感して、安堵していました。

「弱々しい主人格の時子」は、過去の私です。

彼女は、自分が義務と思い込んだ物の為なら、何を振り捨てても努力します。そのように育てられたからです。

彼女を守る為、「五樹」や「桔梗」は頭を捻り、「彰」は彼女が溜め込む怒りを吸収していきます。そうやって、交代人格達は、彼女を守ろうとしていました。

でも、彼女がその努力を休もうとしただけで、統合が為されました。近頃は何度も行っていたので、やりやすくもなっていたんでしょう。

“上手く出来てるんだなあ”

身体の疲労や、精神の緊張などで起きた人格の交代が、それらを鎮める事で止む。

自分にとって最適な環境を得られれば、交代人格達は統合されてくれる。

カウンセラーがしてくれた説明を思い出したりしながら、私はそのまま眠りに就きました。


今日はこんなところです。少し分かりにくい説明が多くてごめんなさい。お付き合い下さって、有難うございました。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎