小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

八人の住人

INDEX|88ページ/152ページ|

次のページ前のページ
 

69話 カウンセリングルームにて・5






「現在は、統合がされています。多分一時的な物で、いつかほどけてしまうと思うんですが。統合は頻繁にされるんです」

私は昨日、カウンセリングルームでそう言いました。カウンセラーは、それを聞いてこう言いました。

「そうですか。では、出来るだけ長く、一緒になっている時間を維持出来るといいですね」


その日のカウンセリングでは、こんな話を聞きました。

カウンセラーが出してきたスマートフォンの画面には図が示されていて、それぞれ違う色に塗りつぶされた3行の文字と、数字の目盛りでした。

上から、「闘争逃走」、「穏やか」、「シャットダウン」と書いてあり、「闘争逃走」は赤い帯に、「穏やか」は黄色で、「シャットダウン」の書かれた所は青く塗り潰されていました。

横に書かれた目盛りは、「穏やか」の真ん中辺りが「50」と書かれており、後は上下の幅があるのが解るくらいで、その他に数字はほとんどありませんでした。

「「闘争逃走」というのは、逃げたり、闘ったりするために、気を張り詰めている状態ですね。そして、「穏やか」は、気が楽になっている」

カウンセラーは丁寧に指差す所を変えて、柔らかく話します。

「「闘争逃走」の状態で気が張り詰め過ぎたり、「穏やか」の所から落ち込んでいったりすると、「シャットダウン」になります。この「シャットダウン」の時に、「耐えられないんだ」と思って、人格の交代が起きたりするんです」

私もその説明を充分飲み込めましたが、よく考えられた図式だと思いました。

以前、「弱々しい時子」だった私が現実から逃避する為、人格を交代していた時。

それはいつも、家事を頑張り過ぎて疲労し過ぎたり、人前に出て緊張が高まり過ぎた時などでした。いつも、“過剰な負担”の後だったのです。

私達は何も、気分で表に出る人格が変わったりする訳ではなく、必要に応じて交代していました。

だから、ケア役の「五樹」が一番出番が多かった。

「それから、この「穏やか」の所からあまり外れないで生活していると、だんだんこの「穏やか」が広がって、負担なく出来る事が、増えていきます」

カウンセラーはそう言って、同じ画面に大きな波線が敷かれた画面を出して見せます。

「逃走闘争」から「シャットダウン」へと上下していた波線が、「穏やか」の中へ収まり切る。私はそれを見て、こう言いました。

「無理に出来る事を増やそうとして、行動から始めてしまうと、シャットダウンされてしまうものですね?」

カウンセラーは大きく頷き、笑います。

「そうですね。自然に出来る時が、来ますので…」

様々に納得して、カウンセリングは終わりました。


私は今、ほとんど家事をしなくなりました。

精神科医からも、「入院はどうですか?出来ませんか?」と心配される事もある位、うつ状態は重いです。そうすると、無理に家事をするのは困難です。

以前の私はそれが分からず、「やらなくちゃ」と焦ってばかりでした。

ですが、恐らく「五樹」を吸収出来た事で、気持ちの落ち着きを得て、「無理をしても悪くなるだけ」と、やっと理解出来ました。

でも、家事をやめてから、少し困った事があります。

今まで食事はしっかり摂れていたはずなのに、急に食欲が無くなってしまったのです。

“まさか、今まで食べていたのは、活動によるストレスからの食欲があったからなのか?何もしないでいたら、ただうつ状態から食べられなくなるのか?”

でも、寝る前の薬を飲むといくらか食欲が出るので、昨日はペペロンチーノを作って、半分程食べました。


統合がいつまで保たれるか分かりませんが、目下の問題は食欲です。今日も退屈なので、そろそろ眠る薬を飲んでしまおうと思っているので、それで食欲が出れば何か食べるでしょう。

お読み下さいまして、有難うございます。また読みに来て下さると嬉しいです。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎