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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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63話 初顔合わせ






おはようございます、五樹です。昨日は僕達の新しいカウンセラーとの、顔合わせでした。


カウンセラーは男性で、とても物腰穏やかで少し猫背、喋り方は淀みないですがすごく丁寧で、優しい感じでした。大体カウンセラーはそういう人ばかりですが。


カウンセリングは、一軒家の一角にある和室で行われました。

僕と夫君は隣合って籐椅子のような椅子に腰掛け、目の前には小さなテーブルを挟んでカウンセラーが居ます。

駐車場で車を出る前から、時子は僕に交代していました。

夫君が「今も交代しています」とカウンセラーに言うと、カウンセラーは「それは言って頂けると助かる」と言いました。

交代人格が現れるという事は、主人格がその場を警戒して出てこない、という事の指標になるのでしょう。


その後、少々幼少期の話などしてから、カウンセラーは「この場で安心出来るというのがとても大切なんです」と、前のカウンセラーと同じ事を言いました。

僕達はその場に即した世間話のような事を二言三言喋っていましたが、その内にカウンセリングルームの空気を時子が「良し」としたのだと思います。

時子が目を覚ました時には、彼女は駐車場の車の中ではなく、すでに対面して腰掛けたカウンセラーの前だった。彼女はとても怖がって、辺りを見回します。

「大丈夫ですよ」

そうカウンセラーが声を掛けると、時子はこう聞きます。

「そうですか…?何も、なかったですか?」

「何も、とは?」

「いえ、その…何か私、変な事言わなかったかな、と…」

どうやら時子は、僕達がカウンセラーの前で何かおかしな事をしなかったかと、心配したようです。

「五樹君だったけど、平気だよ。普通に話しただけ」と、横から夫君がフォローを入れてくれました。


その後、カウンセラーに自己紹介をしてから、時子は大きく分けて2つの話をしました。

“前のカウンセラーの死はショックだった。私は人の死に耐えられない”

この話をした時、彼女は初めて会うカウンセラーの前で、泣きました。

“別人格達が居る事に自分は耐えられないし怖いのに、自分の周囲の人間は彼等を信頼している。そうして、「別人格については心配するな」と言う。自分だけが彼等について何も知らない気がするし、やっぱり怖い”


カウンセラーは前のカウンセラーに心理療法を教わった人だったので、時子の話を真剣に聴いて、「自分もあの方の死には心を痛めている、あまりに急だった」と話してくれました。


2つ目の話には、カウンセラーはこう答えました。

「安心感というのは本当に大事なんです。だから、別の人格に対しても、安心出来るといいですね」

それを聞いて時子は驚き答えました。

「別の人格が居る事って、安心出来ますか?」

カウンセラーは落ち着き払っていました。

「彼等と喋れるようになったりすれば、どんな人か分かって、安心するでしょう」

その言葉は時子には信じ難く、彼女は「別人格と喋るって、なんか変ですよ…」と言っていました。


その後カウンセリングルームを出てから、車移動で疲れてしまったのか、時子は僕に交代します。僕と夫君は食事をして帰宅し、僕は入浴を済ませて、時子に交代しました。


今朝はまだ時子はほとんど表に出てきません。ほぼずっと、僕がこの体で過ごしています。彼女が昨日のカウンセリングをどう感じたかなどはよく分かりませんが、あまり悪く取ってはいないでしょう。

カウンセラーは、「決定的に“違うな”と思ったら、カウンセラーを変えるという手もあるので、自由にお話して下さい」とも言っていたので、成り行きを見守ります。


今回は少し長くなりましたね。お読み頂き有難うございました。奇妙な話が続きますが、また来て下さると嬉しいです。それでは。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎