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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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61話 自罰






こんばんは、五樹です。


今日の午後は、6時間程僕が表に出ていて、時子はずっと眠ったままでした。

僕は今まで、長くても3時間程度しか出ていなかったので、“今日は長いな”と思っていましたが、“昨日から状態が悪かったからな”と、理解もしていました。


僕は昼に時子から交代し、彼女が食べていなかった昼食を食べて、更におやつにとパンケーキを焼きました。

その後、明日の分の米を研いで水に浸したり、常備菜を作ったり、洗濯物を畳んだり。そんな事をしてから、布団でゆったりと時間を過ごして、時子が目覚めるのを待ちました。

運良く仕事が早上がりとなった夫君が戻る頃には僕達は交代していましたが、時子の状態は昨晩より悪かったのです。


布団で休んでいた僕と交代し、目を覚ましてすぐに、時子は、今抱えている絶望を思い出しました。

ここ数日の時子は、目が覚めると必ず「何も無い人生がまた始まった。もう死にたい」と口にしていました。うつ症状が酷く重いのです。

時子は「寝室から出たくない」とドアを閉じてしまい、少しして、喋れなくなりました。

夫君が時子を寝室に連れに来て、食事をさせようとしました。でも時子はあまりの無気力さから、起き上がるのに力を入れても立てなかった。夫君が体を持ち上げて立ち上がらせ、手を取ってテーブルまで連れて行ってくれました。

二人は無言のまま食事をしましたが、時子は味覚を一時的に失っており、食事は味気ない物となりました。彼女は食事のほとんどを残してしまったのです。


でも、食後に布団で夫君に抱き締めてもらっている内に、時子は少しずつ元気を取り戻し、しばらくするとなんとか喋れるようになりました。

「うわあすごい。立つの楽になった。立つの楽っていいな〜」


その後、時子はまた少し疲れて僕に交代しました。

眠る前に時子が言っていた事があります。それは、夫君が「おやつにパンケーキなんて多過ぎるよね。五樹君を叱っておくよ」と言った時。

「五樹さんは、私の体を労る為に、外出も出来ないし、私のお金を減らさないようにする為に、買い物も出来ないの。食事以外に楽しみがないんだから、叱るのはやめてあげて」

僕はこの事について、言うべき事があります。

それは時子の方です。

僕は外出が面倒で、特に欲しい物がないだけで、息抜きはたまにやる家事です。自分の求める生活なら、もう手に入っています。でも、時子はそうじゃない。


彼女はうつ症状が重くて外出は出来ない。お金が少ないから、趣味の買い物も出来ない。

それから、時子は物事を楽しむ事が出来ません。なぜなら、何かを楽しむ自分を許せないからです。


時子は、漠然とではありますが、自分に大きな大きな罰を課しています。

彼女は自分の事を、「生きていてはいけない人間」と評するのです。原因は、幼少期から母親に「死ね」と言われ続けたから。そんな人が、自分が何かを楽しむ事を肯定出来るでしょうか。

お察しの通り、彼女は何かを楽しむ自分を見つけたら、すぐに自責を始め、「お前には楽しみなど値しない」と、厳しく自分を非難します。

この時子の“癖”については、カウンセリングで少しずつ解消していく他はありません。


心配な事はたくさんありますが、少しずつ変えていくつもりです。


今日もお読み頂き有難うございました。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎