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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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60話 頑固な悲しみ






こんばんは、五樹です。本日は少し重たい話になります。


今日の時子のトピックスとしては、朝から調子が悪かったのですが、夕方には夫君にお菓子を焼いてもらって喜んで食べ、その後酷く落ち込み、死にたがり始めました。

僕は、その苦痛の時間を交代して、今この話を書いている次第です。


昨晩から時子は不安定で、様々に落ち込み続けていましたが、僕達はTwitterでこんなやり取りをしました。よく覚えていなくて、時子が既に消してしまったので、朧げではありますが。


「私を助けられる人は私以外に居ない。でも私にも出来ない。だからお手上げ。

でも、辛抱していれば状況が良くなったって話はよく聞くし、今は辛抱するよ。最後までそれが与えられる事はないと分かってても。私なら耐えられるから。

人生って、何を知ってても、未来に向かう事だと思う。」


“君の苦しみは今の環境に依存しない物です。だから、時が立てば状況が変化するという事はないと思います。

確かに自分を救うのは自分以外にないかもしれませんが、その道程で手助けを受けてはいけないなんて事はない。君は最低限の物理的な手助けも拒むから、過去の苦しみに、更に現在の苦痛が乗せられてしまうんです。

なんでもいい、自分がやると苦しくなってしまう事を、一つだけ、誰かにお願いしてみて下さい。”


これは、僕と時子の長い会話を、文脈を乱さず一つにまとめた物です。

後半は僕の発言ですが、時子はそれを見ていて、“段々と逃げ道が塞がれていく”と感じたようです。


彼女は幼い頃、周囲に手助けを頼む事が出来ませんでした。

母親は、時子が何かをしくじる度に、「仕事を増やすな!ろくでなし!」と叱るばかりでした。なんでも自分でさせられるようにと、暴力で時子を従わせ、時子が何かを頼もうとすると、「自分でやって」と冷たく言い放つか、「そんな事も自分で出来ないのか!」と怒鳴りました。

時子にとって、「手助けをしてもらう」というのは、それを頼んだ相手から軽蔑されるという事と、イコールなんです。そう教えられてしまった。

家庭で頑張っていた子供が、外に出ても人の助けを借りるのを嫌がって、頑張り過ぎてしまう。たとえば「長女はそうなりやすい」なんてよく言われるでしょう。時子はそれが極まりに極まった人格です。

彼女が人に助けを求めるには、超えなければいけない抵抗感が強過ぎる。これは後々カウンセリングで解消されるだろうと思います。

それから僕は、こんな風にも言われました。


「私の背負っている悲しみが、人間に背負い切れる物じゃない事くらい分かってる。だからそれを閉じ込めて死ぬので精一杯なの。それ以上を求めないで。」

つまり、救われる所まで頑張るのは無理、と言いたいんでしょう。

でも僕はこう返しました。


“僕には君の運命を左右する力はありません。それに、君はこれから、僕が何をしようとも、良くなっていく。僕はそれを見ているだけでしょう。君は、カウンセリングや、夫君との関わりなど、大きく変わる要素をいくつも持っている。僕だけにそれを頼んだ所で、無駄ですよ。”

時子はあまり納得していなかったようですが、僕達の会話はそれで終わりました。


今日は近況の中から目立ったやり取りを抜き出した感じですね。お読み頂き有難うございました。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎