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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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56話 悲しい事がありました






お久しぶりです、皆様。時子です。今回、五樹さんから「もう一度君の近況を「八人の住人」に書いてみてよ」と言われたので、こうして書いています。

近況、と言われましても、私は自分の毎日がどのように過ぎていくのか、あまり良く分かっていません。

毎日毎日目まぐるしく日々が過ぎていくように感じるのに、覚えておける事がとても少ないのです。

それは、家に閉じこもって刺激の無い空間で生きている事から来る、麻痺のような感覚かもしれません。

でも、強く記憶に残り、消えなくなる事もあります。そんな悲しい事がありました。


私のカウンセラーさんが、突然居なくなってしまいました。亡くなったとメールが届き、私はそれに返信したそうです。私は、恐ろしくてそのメールは見ていません。

私が五樹さん達と統合していた間にその報せはあったらしく、私は覚えていませんでした。夫から聞いた時、「どうせならずっと知らないままで居たかった」と思いました。


人の死は突然やってきます。逃げ切る事は出来ません。自分が一番先に死んでしまう位しか、人の死から逃げる方法はありません。私はいつも「自分が先に死ねば良かった」と思います。

どうしても、誰かが死ぬのが怖いのです。それに、私には「死」が理解出来ません。

昨日まで笑っていた人が、今にもまたそうして起き上がりそうに、棺の中に収まっている。でも、その姿を見ると、まだ生きているように見えるはずが、はっきりと死んだと解る。それは友人の葬儀で体験しました。あんな思いは一度でたくさんです。

私は、これから生涯、お葬式には行けません。何度もあんな気持ちになっていては、生きていけません。ああ、私はやはり生きようとしているんでしょうか。


生きている。何をする訳でもなく。苦痛は変わらない。ずっと溜まり続ける。


私は時たま自分の心中の景色を見ます。それは、閉じられた部屋に自分が居る景色です。

白い壁に四方を囲まれた部屋は少し狭く、ベッドもテーブルも、家具は何一つありません。でも、居心地良くそこに私が居ます。

部屋の窓には空色のカーテンが掛けてあり、“私の周りの誰かは、いつもあの窓の向こうから私に話し掛けている”と、私は直感で理解します。

部屋にはドアがありますが、鍵が壊れているので開きません。私はそれも理由なく理解します。

ドアだけが不気味に真っ赤で、私はこう思います。

“あの赤いドアは、私の血だ”


私はドアを開ける事が出来ず、カーテンも怖くて開けられないのです。いつも自分がその狭い部屋に囚われて生活しているのだと思い、それは確かにそうだと思うのに、出られない部屋の中から助けを求める方法が解りません。

それに、なんだかそのままあの部屋に居た方が、安全なような気がするのです。外の世界の事は、全て過ぎ去っていってくれるように思うのです。


“自分は頭が壊れてしまった。だから何人も別の自分が居たり、昨日の事も思い出せなかったり、あんな真っ赤なドアがある部屋なんかの幻想を抱いたりするのだ”

そんなふうに今思いました。五樹さんは、この話を読んでなんと言うのでしょう。いつものように、私を庇うでしょうか。

彼はいつも私を庇おうとしますが、そうされる度に、私は違和感を感じるのです。

私は怠慢だし、自堕落です。だから、責められたり、詰られたりする事以外で私を表現するのは、適切でないように思うんです。


あまり長く書かない方が良いようですので、この辺でやめておきます。今回は私の内心を書こうとしてみました。出来たか分かりませんが、こんな物でもお読み頂きました方、有難うございます。また次回からは、五樹さんが書くと思いますので…。それでは。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎