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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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八人の住人

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53話 出来うる限り






五樹です。どうやらここで落ち着きを得たなと思ったので、まだ1日しか経っていませんが、事後報告をしたいと思います。


51話の時点ですでに起こっていたのに、僕が語らなかった事を説明します。それは、時子のカウンセラーの死です。

詳しい事は分かりませんが、それはメールで突然送られてきた報せで、それを受け取った時、時子と僕達は統合されていました。

統合のせいか、報せがあった時には時子は慌てる事もなく、「次のカウンセラーさんを探さなくちゃ」とまで、平気で言っていました。

でも、その後統合が解けた後で、統合していた1日間の記憶が抜け落ち、その日にはちょうどカウンセリングの予定が入っていたので、時子は夫君にこう聞きました。

「統合してたの?そっかあ。そういえば、カウンセリングはどうだったのかな?」

その時、夫君はやはり躊躇いました。彼は、“どう言おうとも時子は傷つくだろう”と思っていたのか、不安げな顔をして、口を開いたり閉じたりしていました。その時、時子はそれを見て、瞬時に答えを悟ったようです。

「カウンセラーさんがね…」

時子は怯えて怖がり、微かに首を振っていました。

「亡くなったんだ」

その衝撃は、雷が落ちるより速く、時子の心を打ち砕いてしまいました。彼女は、夫君の言葉を聞いて10秒もしない内に、ぽろぽろっと涙をこぼします。そして、こう言いました。

「言わなくていい…!言わなくていいよ…!そんなの言わなくていい!うあーん!先生ー!」

まるで急に母親が居なくなった幼子のように、時子は泣き崩れて、そのまま1時間ほど泣き続け、僕に交代して夜を過ごしました。


それから、カウンセラーの事を思い返す度に時子は大泣きしていて、そんな日々に耐えられなかったのでしょう。彼女は、カウンセリングにまつわる全ての記憶を消す為、丸々4年の記憶を全て手放します。


今、時子は眠っています。4年の間の記憶も、ついさっき戻りました。

でも時子は、記憶を失くしていた間の1日間の記憶を、また失くしてしまったようです。


彼女は、人格が統合していた間の記憶が無い事の混乱が一昨昨日にあり、そして一昨日はカウンセラーの死で衝撃を受け、それから昨日は、4年間の記憶を失くしたことで混乱していた。

それでなのか、昨日と一昨日、時子は眠りに逃げようとして、オーバードーズをしてしまいました。

就寝前の睡眠導入剤と安定剤を2回分飲むだけですが、2日連続でそれをしてしまった為、僕は今、安定剤の怠さが抜けず、困っています。


でも、時子の好きなほうれん草のバター炒めも作れたし、水差しの熱湯消毒や、魚焼きグリルの掃除も出来ました。それから、洗濯機から洗濯物を乾燥機に移したりと、いつも僕がやっておく家事は滞りなく済んでいます。


時子は今回、出来うる限りにショックを乗り越えようとしました。

大好きなコーヒーを楽しもうと気を紛らわしてみたり、美味しい物を食べてみようとしたり、体には危険ですが、眠る為に薬を飲んだり。

そんな事をしていた間の時子は、「なんだか人生がまるで甲斐が無いものみたいに思えてきて、早く死にたい」と考えていました。

でも、こんなダメージが立て続けに起こったら、そう思わない方がむしろおかしいんです。そして、その事に対して時子は乗り越える為のベストを尽くしている。僕が言いたいのはそれだけです。


ここ数日は大きな出来事が起きすぎたので、あとしばらくは落ち着きたい所です。お読み下さいまして、有難うございました。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎