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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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50話 統合、六度目






おはようございます、時子です。今回、私達は自然な統合の六度目を迎えました。


前話「悠君の大冒険」の後で、私は混乱していましたが、段々と「五樹」を頼る様になり、五樹はそれに照れてうるさがっていました。

「時子」は「五樹」と会話をしたがって、起きている時は頭の中に話し掛けてみたり、Twitterで五樹のツイートに返信をしてみたり。

そんな風に私達の間の垣根が大分低くなり、その影響で二人の意識はまた混じり始めます。

“でも、統合にはまだ早い。この子には僕達を全員引き受ける気力体力はない”

それが、「五樹」としての最後の台詞だったように思います。


時子が目を閉じると、今まで時子だけが見る事のなかった、別人格達が格納されるフラットが見え、そこから出た悠と五樹が目の前に並んでいるのを見ました。時子は胸を膨らませ、二人に微笑みます。


「これで私達、一緒になれるかな?」

大きな頭を俯けていた悠が、頭を上げて時子を見ます。彼は全く「可愛い7歳の男の子」で、まだ細い髪でまんまるく頭を覆っていました。背丈は時子の腰くらい。

「じゃあ、君が時子ちゃん?」

悠は、今までそれを知らなかったようです。

「そうだよ」

「そっかあ!」

悠は“かまってもらえている”とでも思っていたのか、楽しそうでした。

でも、五樹は慎重でした。彼は足先で床を叩き、腕を組み、その姿は、23歳で亡くなった、時子の友人と同じでした。

「上手くいくかは分からない」

そう言って五樹は脇へ息を吐きます。

「そうね」

時子は、その場に居なかった桔梗と彰を呼びます。桔梗はすぐに現れました。

桔梗の赤いスカーフは、半袖の白いセーラー服の襟からスルリと流れていて、彼女の手首はとても細かった。長い髪を耳に掛け、桔梗はすました顔をして、時子の前で立ち止まります。

「来たわよ」

「大丈夫かな?一緒になれそう?」

「多分」

時子は今度、彰を呼びました。

「彰さん!出ておいでよ!」

でも、フラットの中から彰はなかなか出てこなかった。だから時子は彼の部屋の前まで歩いて行って、ドアを開けます。

部屋の中で、彰は、テーブルの足にしがみついて、泣き震えていました。

「どうしたの…?一緒に…ならないの?」

そう聞くと、彰は叫びました。

「そんな事…出来るはずがない!」

彼の叫びは悲痛で、時子は戸惑いながらも話を続けます。

「どうして?」

彰も躊躇っていましたが、流れる涙を拭いもせずに、額には汗をかき、彼はまた叫びます。

「だって、だって俺は…“殺意”だぞ!?そんなもんを受け入れちゃダメだ!」

その時時子は小さく笑ってから、こう言います。

「大丈夫。それも私だし、私はもうそれは使わないから」

そうして全員が私の元へ集まって、私が現実に目を開けた時には、様々な感情が鮮烈に胸に渦巻き、私はぼーっと宙を見ていました。


今、私はまた、統合による心の静謐を感じています。

私の中で一番力を持っていて、私自身の要素として大きかった人格は、やはり「五樹」でした。だから、別人格として在った頃にも、彼ばかり現れていた。

「五樹」は冷徹で、物に驚かず、面倒くさがりでした。だから、目の前の事に冷静に注力して、無駄なエネルギーを使わない。自分の中にそんな意識があるのを、私は今感じています。

ただ、あまりに合理化され、感情さえ省かれてしまって、人の死にも動じない自分を見ているのは、少し辛いです。

人格が8人居た頃の「時子」は、何につけても心揺れない事はなく、何でも味わって大いに楽しみ、悲しみも大きかった。

「五樹」を吸収し終われば、その鮮やかな日々は消えてしまう。それがあるから、いつも統合を維持したくなくなるのです。

でも、今度はこの日々に耐えられるように、努力したいと思います。

まあ、すぐに統合は崩れちゃう気がするんですけどね。

では、今度もお読み下さいまして、有難うございます。いつも展開が急ですみません。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎