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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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47話 嘘






こんばんは、五樹です。


今日は、病院の診察も僕が交代して無事に済み、時子が目を覚ましてからは、昼食をレストランで食べて、彼女は楽しんでいました。


ところで、皆さんは嘘をつくでしょうか。答えはもちろん「はい」でしょう。僕も数え切れない嘘をつきます。

“嘘”とは何を指すのでしょうか。“嘘”と言って責めるべきは、どこからでしょうか。それは人によるでしょう。


時子は、“自分は、人と喋る時には嘘しか言わない”と強く思い込んでいます。

彼女は、思いやり深い人です。そうした人は、人を気遣い、言葉選びに注力します。でも、時子はそれを「嘘をついている」と定義してしまう。

それから、時子は幼い頃から虐げられていたので、周囲の人間を常に警戒して、恐怖しながら喋ります。でも彼女は、周りに心を許しているかのように振る舞う。それも恐怖からです。そうして、そんな自分を「嘘つき」と罵るのです。


人間の心が、そんな生き方に耐えられるものでしょうか。そんな些細な事を全て罪に数え上げて自分を糾弾し続ける毎日に、耐えていけるのでしょうか。でも時子は「耐えられる」と言います。


先程時子はこう言いました。

“誰かとお話する度、嘘が増えます。だからお話したくありません。でもそれは良くないのでお話します。今日もいっぱい嘘をつきました”

“心のままに思いやり深い人になりたかったな”


時子は、過去に作り出した頑丈な防御壁の中からは出られない。だから、誰かと楽しそうに喋るという事が、既に彼女の中に不自然を生んでしまうんです。本当なら、怖がって誰とも喋る事なんか出来ないのに、努力だけでなしているのです。

それから更に人を気遣い、目の前の人を慰めたり、明るい気分に出来るようにと、考えながら気持ちを込める。彼女はそれを、「心から湧いたままじゃないから嘘だ」と決めつけているんです。


「もうそれ以上自分を傷つけないで」と、そう言ってやりたくなります。

“そんなのみんなやっている”

“現実に誰も傷つけていないなら構わないでいい事なんだ”

“嘘をつくのが全て悪い訳じゃない”

これらを言っても、時子は納得しないでしょう。事実、時子は度々、夫君に「私は嘘ばかり言うの」と訴えていて、「嘘も方便って言うじゃん」と慰められては、「でも嘘なんかつきたくない」と泣いています。


彼女は、“自分は平気な振りをして人を騙している”と強く思い込んでいます。だから、周りは騙されてなどいない事は知らない。

時子の周りの人間は、本当は怖くて仕方がない筈なのに、人間と接する努力を続ける時子を、ずっと心配して来ました。僕も心配です。

その上で話の内容で自分を否定しに掛かるなんて、止められなくても止めたくなります。でも、本当に止める方法が無いのです。人が人を許せるかどうかは、本人の心一つに懸かっています。相手が自分自身であっても。

僕に出来る事は、こうしてくたびれた彼女と交代し、体を休ませる事だけです。


お読み頂き、有難うございました。また次のお話で会えると嬉しいです。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎