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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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42話 感覚の喪失






こんにちは、五樹です。今日も僕は時子の自宅療養に付き合う為、家に篭って暇を持て余しています。

今日は、時子の身体について話しましょう。


時子は、「自分は今どのくらい食べれば満腹になるのか」を測る事が出来ません。

それから、「今どの位疲労しているのか」を知る事も出来ません。

「今は暑いのか寒いのか」も分からないようです。

この3つは密接に関わっています。


時子は、身体の欲求を無視しながら生活してきました。

母親の家に居た時は、どんなに疲れていても休ませてくれない時の方が多かったですし、休もうとすると軽蔑されました。弛まぬ努力で支えなければ、居場所がありませんでした。

そして14歳でその家を離れてからも、14年培った緊張と疲労はなかなか抜けませんでした。

青春のただ中に居て遊び足りず、更に、「父に尽くしたい、周りの助けになりたい」と念じていた時子には、疲労で何も出来ない生活など受け入れられませんでした。

彼女は重いうつ状態でありながら、自分の願いの為、「疲労は無視してしまおう」と決めたのです。これは、「六人の住人」でも少し話しました。

しかし、疲労を無視する為には、身体の感覚全般に対して、鈍感でなければいけません。

時子は空腹になってもすぐにそれと気付く事が出来ず、気が付いた時にはいつもお腹が空いて動けなくなっています。そういう時に、僕が出てきて食事をするという事は、ままあります。

それから食べる量についても同じで、どの位食べたいのかという自分の欲求を見極める事が出来ないようです。いつも食事をたくさん用意し過ぎて食べ切れず、残しておいて後で食べています。

運動をしようと歩きに出ると、翌日動けない程疲れてしまったり、食事をしたいはずなのにそれが分からなかったり。時子は自分の体の事が分からないのです。

彼女は冷房で体が冷え切っていても平気で生活しているし、暖房が消えても1時間は気づきません。寒い日にコートを持たずに出掛けようとする時子に、いつも夫は「上着を着ないと」と声を掛けています。


カウンセラーはそれについても“凍りつき”を引き合いに出していました。

「神経が凍りついて過去に戻っている時には、“お腹が空いている”という事は分からないんです。だから、“お腹が空いた”と思うのは、とても良い事なんですよ!」

日常的に食事を忘れている時子に付き合う僕からすると、「早く食べてくれ」と思うだけですが、これも彼女に降りかかり続けている災いです。

早く症状が良くなり、体をいたわれるようになると良いのですが。


僕はこれから昼食です。時子は朝食に、なぜかパン1枚と少量の米、それから野菜しか食べていないので、もうお腹が空いて仕方ありません。食べ終わったら投稿作業をします。


お読み頂き有難うございました。また読みに来て下さると嬉しいです。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎