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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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37話 良い兆し






こんばんは、五樹です。今日は、ちょっと変わってきた僕達の生活をまた書いてみましょう。


僕はさっき、運動をしていました。運動と言っても、スクワットとエアロバイクだけです。

スクワットは、10回を3セット行い、エアロバイクを30分漕いでから、もう一度10回1セットのスクワットです。

この位の内容と強度の運動を、僕は最近よくやります。

何せ、時子はうつ状態と、それから人を怖がるのとで、滅多に家から出ません。だから、家で出来る運動は重要です。

僕は外に出るのも怖くないですが、それだと外出時に何かの拍子で時子に交代してしまった時、彼女は大いに混乱します。それに、もし知らない道を歩いていたりしたら、帰れない事も考えられます。


僕はそれから、前と同じように、適宜溜まっている家事を片付け、歯を磨き、風呂に入ります。これらは全て、時子には苦痛だから。でも、この間は少し出来たようでした。


一昨日あたりに時子は、一気にいくつも家事をやりました。

それは夜中だったので、掃除機ではなく箒での床の掃き掃除、それから水布巾と洗剤での床の手拭きがまず一つ。

あと、洗濯物を畳み、乾燥機のフィルターを掃除しておいて、洗濯機を再度回して、その洗濯物を乾燥機へ。

最後に、皿洗いと、自分がいつも食べる常備菜の料理、米を研いで水に浸漬しておく事。

これだけ出来れば偉いものです。

ただ、この時やろうとしていたトイレ掃除は忘れていたようなので、それは僕が後でやりました。


まず、カウンセリングの効果で、長年凍りついていた彼女の不安が溶解し、不安を外に出すようになった。

その不安が治まってからは、眠る事に対する恐ろしさが無くなりました。

それから、少しは小説を書けるようになり、たまに家事も出来るようになった。


この頃は、悠も桔梗も、彰も姿を見せません。もちろん彰は「出せ!ここから出せ!」と部屋の中でずっと暴れていますが、その決定が出来るのは時子だけです。

僕達は、時子が「必要且つ、周りに受け入れてもらえる」と感じなければ、表に出られません。

ある人格が表に出ないという事は、「出しても周りからは受け入れてもらえないのでは」と時子が感じているか、もしくは時子が安定しているかの、どちらかです。今は後者ではないかと、僕は思います。

でも、まだまだ時子はフラッシュバックや体調不良に苦しむので、そういう時に彼女を休ませる役割である僕は、今のように、毎日頻繁に表に出なければいけません。


あまり多重人格小説とも呼べなくなってきましたが、あくまで僕達は存在していて、いつかは必ず、時子がずっと置き去ってきた感情と対峙しなければいけない時が来るでしょう。


今日もお付き合い頂き、有難うございます。また読んで下さると嬉しいです。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎