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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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八人の住人

INDEX|55ページ/152ページ|

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僕はよく、「時子ちゃんを守ってくれてありがとう」と言われます。

確かに、僕は時子が苦しい時に交代してやり、彼女が束の間だけでも逃げる役に立つ事が出来ます。でも、それだけです。


僕が交代から眠りに入る時、まだ目覚めていない時子の姿を見る事があります。彼女は泣きながら母親を呼んでいる。

「もうそんな事は忘れろよ」

僕がそう言っても、彼女には聴こえないから、返事はありません。それは恐らく、彼女が僕という人格を、自分とは分けて考える為だと思います。


彼女が、「自分」という枠から僕を閉め出した以上、彼女の苦しみの根源を僕が除いてやる事は出来ない。それにもちろん、現実に泣いている時の彼女を、他者として目の前で慰めてやる事も出来やしません。


僕は、目覚めて意識を持っている時子からも、“自分の一部だから、私を良く理解してくれるんだな”と感謝される事があります。それは、僕が残したメッセージが、彼女の心にぴたりと当てはまるからでしょう。でも、それだけ。

彼女が異性として僕を見る事なんか絶対に無いし、僕はそもそも、独立した一人の人間として捉えられる事もありません。時子だって、解っているのです。

「五樹」は、「時子」から切り離された、自己愛です。それを僕は重々承知しています。だから、僕が彼女を愛するのは初めから決められた事で、言ってみれば、僕達は茶番劇の登場人物なのです。

それなのに、なぜ僕は嫉妬や独占欲まで抱えなければいけないんでしょうか?

自分が彼女の一部だと理解しているなら、彼女が誰かを愛するのだって、微笑ましく見ていられるはずじゃないですか。絶対に叶わないと知っているんだから、諦められるはずじゃないですか。


人間の精神は、かくも不可思議な方法で、叶わない恋を生むものです。僕は昨日からずっとこの事だけを考えていて、それを誰に話す事も出来ませんでしたが、ここに書きました。

この話は、時子だって読むでしょう。でも、僕はもうそれを気遣って黙っていてやる事なんか出来ません。


長々とお付き合い頂き、有難うございました。少しまとまりのない文章になってしまい、すみません。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎