八人の住人
38話 最後の手段
おはようございます、皆さん。私の名前は桔梗です。
更新の間隔は狭いですが、私が眠る前に書いておきます。
五樹は私を煙たがっていますし、ここに私が文章を書くのは、彼は承服しないでしょう。でも書きます。
私は、時子が14歳の頃に生まれ、その望みを保存した存在らしいです。だから私は14歳です。
時子が私に託した望みは「死ぬ」ということです。でも、もう死ぬ必要なんかなくなっても、私はまだ消えていません。
私は、時子のカウンセラーから説得をされて、大丈夫だと解ったので、今の時子を殺そうとは思いません。
でも、もしかしたら私が役に立つ日も来るかもしれないと思うのです。
年老いてからも時子の病気があまり良くならず、親が死に、親戚が死に、やがて夫も死んでしまったら。たった一人になってしまったら。
その時こそ自分はもう一度絶望すると、時子は実際に頭に思い描いています。
時子はたまに物思いに沈み、こう思い巡らします。
“いつかきっと、一人ぼっちになる日は来る”
“夫は歳上だし、親も親戚の叔母さんも、私より先にいなくなっちゃう”
“そうしたら今度こそ、私は独りで死ぬんだ”
“私はうつで何もできないから、きっとめちゃめちゃになった家の中で、孤独死だ”
“そうだ、きっとそうなる。だから覚悟しておこう。その時が来ても大丈夫なように”
時子はその零れ落ちそうな思いを、たった一つのため息だけに、少し逃がします。それから、どうにか持ち切れるだけに悲しみが縮んだら、また放さずに覚悟を心に仕舞う。不安なんです。
現状がどうにもならない。苦しくて仕方がない。もう死んでしまいたい。時子は過去にそう思い、私を生みました。
それから彼女の現状は良くなったのに、不安だけは消えていません。これはまだ、カウンセラーの言う“凍りつき”が解け切っていないことを指しているんじゃないかと思います。
いつまでも最後の手段を持っていたいから、私も消えていない。
私は今は、時子をどうにかしたいとか、彼女と対話したいとは思いません。
私達交代人格が時子の立場で何かを言えば、彼女が押し殺してきた感情を、彼女のものとして人々に知らせることができます。でも、他にやるべきことはありません。
私は、もしできるなら、時子の生きる最後までを見ていたいです。彼女がもう一度大きく絶望してしまった時、彼女の望みを叶えてやれるように。それが、どんなに哀しい望みでも。
それでは、私の話は終わりです。こんな内容ですみませんが、読んで頂いて、ありがとうございます。ではまた続きで。