小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

八人の住人

INDEX|57ページ/152ページ|

次のページ前のページ
 

38話 最後の手段






おはようございます、皆さん。私の名前は桔梗です。

更新の間隔は狭いですが、私が眠る前に書いておきます。

五樹は私を煙たがっていますし、ここに私が文章を書くのは、彼は承服しないでしょう。でも書きます。


私は、時子が14歳の頃に生まれ、その望みを保存した存在らしいです。だから私は14歳です。

時子が私に託した望みは「死ぬ」ということです。でも、もう死ぬ必要なんかなくなっても、私はまだ消えていません。

私は、時子のカウンセラーから説得をされて、大丈夫だと解ったので、今の時子を殺そうとは思いません。

でも、もしかしたら私が役に立つ日も来るかもしれないと思うのです。

年老いてからも時子の病気があまり良くならず、親が死に、親戚が死に、やがて夫も死んでしまったら。たった一人になってしまったら。

その時こそ自分はもう一度絶望すると、時子は実際に頭に思い描いています。

時子はたまに物思いに沈み、こう思い巡らします。


“いつかきっと、一人ぼっちになる日は来る”

“夫は歳上だし、親も親戚の叔母さんも、私より先にいなくなっちゃう”

“そうしたら今度こそ、私は独りで死ぬんだ”

“私はうつで何もできないから、きっとめちゃめちゃになった家の中で、孤独死だ”

“そうだ、きっとそうなる。だから覚悟しておこう。その時が来ても大丈夫なように”


時子はその零れ落ちそうな思いを、たった一つのため息だけに、少し逃がします。それから、どうにか持ち切れるだけに悲しみが縮んだら、また放さずに覚悟を心に仕舞う。不安なんです。

現状がどうにもならない。苦しくて仕方がない。もう死んでしまいたい。時子は過去にそう思い、私を生みました。

それから彼女の現状は良くなったのに、不安だけは消えていません。これはまだ、カウンセラーの言う“凍りつき”が解け切っていないことを指しているんじゃないかと思います。

いつまでも最後の手段を持っていたいから、私も消えていない。

私は今は、時子をどうにかしたいとか、彼女と対話したいとは思いません。

私達交代人格が時子の立場で何かを言えば、彼女が押し殺してきた感情を、彼女のものとして人々に知らせることができます。でも、他にやるべきことはありません。

私は、もしできるなら、時子の生きる最後までを見ていたいです。彼女がもう一度大きく絶望してしまった時、彼女の望みを叶えてやれるように。それが、どんなに哀しい望みでも。


それでは、私の話は終わりです。こんな内容ですみませんが、読んで頂いて、ありがとうございます。ではまた続きで。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎