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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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36話 君を愛するという役割






皆さんこんばんは。五樹です。

今日は、僕が思い悩む事を少し聞いてはもらえませんでしょうか。


僕は、時子の記憶を全て持つ者、彼女を一番良く知る者として、彼女を愛しています。

それは時に、子を見る親のような気持ちであり、またはある時には、憧れの女性を見る男の目線にもなります。

時子が何か失敗してあたふたしていた時には、交代してから、苦笑しながらも彼女をなだめるようなメッセージを残す。

彼女が夫君の事を大切に愛するような事を言った時には、僕ははっきりと嫉妬をします。


以前にも、僕が時子に恋をしている話はしたと思います。思い当たる理由を今日は書きましょう。


人は、人を愛して、その人間性を覗きたがるものです。でも僕は、そうする前から彼女をよく知っている。誰よりも。

彼女が何に怯え、何に恐怖し、その傷を拭うには何を言ってやればいいのか、知っています。

僕は、彼女が計算高くて、ちょっと狡い所があり、それからとびきり優しく、素直な子だと解っています。

それから、今までどんな過ちを犯し、それをどんなに思い返して悔やんできたかも。


人間の心は、その内側を知れば知る程、美しく見える。僕はそう思います。

やくざ者だろうと、悪党だろうと、心の内を見透かして様々な事情を知れば、それらが一人の人間を立たせている様子は、きっと美しい。


僕は、時子の内面を、グロテスクな欲望まで知る事が出来る。それから、彼女が持つ、慈愛にも触れられる。

僕は彼女のコピーであり、更に、彼女を超えられる部分を持っています。

僕は彼女のように、自分を害する者を退けるのを躊躇したりしない。それに、必要以上に自分を痛めつけたりもしません。

それは、“僕になら彼女を守れる”という自負を僕に持たせる事になりました。でも、そんなのは土台無理な話だったんです。

作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎