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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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35話 34年間の不安






こんばんは、五樹です。今日は、時子が3時間半眠ったところで、僕が目覚めました。

あまり間隔は空いていませんが、大きなトピックスがあったので、書き記しておきます。


それは、時子が眠りを怖がらなくなったという事です。


彼女は、カウンセラー曰く、胎内に居た時に、殺されるかもしれない恐怖と闘いました。搔爬を行う時、赤ん坊にもそれは分かるので、母親のお腹の中で抵抗するそうです。時子にはそれが、3回あった。

それから、生まれた後はずっと、母親に虐げられてきました。

息つく暇も無い苦痛の中に居た時子。彼女は5歳の頃にはまともに眠れなくなっていて、朝までゲームをしては、また母親に叱られていました。

小学校に上がり立ての頃には、朝方になってから布団に入るので、教師には遅刻を叱られ、同級生にはからかわれていました。

その後、PTSDは発見されないままで双極性障害を合併してからは、酷いうつ状態から時子は自力では眠れなくなり、薬剤や注射で眠っていました。

ある程度不眠症が良くなってからも、彼女は眠るのを酷く怖がっていた。だから、睡眠導入剤や安定剤を飲んでからも、我慢出来なくなるまで、眠気に抵抗していました。

彼女は、眠くなってくると、たまに夫にこう言っていました。

「眠りたくないよ。眠ったら、外敵から身を守れないじゃない」

もはや現代に生きる人間の言葉とは思えませんが、彼女はそれほどに、身を守る事に必死だったのです。

ところが、昨日からそれに変化が起きました。


昨日、時子は、睡眠導入剤と安定剤をいつものように夕方に飲んでしまいました。でも、薬を飲んで眠くなってくると、すぐに布団に入って目を閉じ、電気を消しました。

僕は、時子が電気を消して眠るという事に、まず驚きました。

彼女は眠るのが恐ろしいので、寝る前に電気を消されると、とても怖がるのです。それが、自分から電気を消した。

その後、彼女は素直に目を閉じて、眠気を心地よく受け入れ、そのまま眠ってしまいました。

今晩も、夜になるのを待てずに薬を飲んでしまったのは同じでしたが、時子はすぐに布団に入り、その暖かさに安心さえして眠りました。


時子は、何よりも眠る事を恐れていた。それは、過去に外敵から身を守る必要があったから。

でも、彼女は眠る前に、今感じている布団の暖かさの方を信じてくれるようになったのです。囚われ続けてきた過去の大きな苦痛が、一つ落ちたのです。


僕としては、大きな快挙で、とても喜ばしい事です。彼女は生まれてからの34年間、ずっと“自分は脅かされている”と、気を詰めて生きてきたのですから。

まだまだ長く眠るのは難しいようですが、不安がなくなったのだから、後はトントン拍子に上手くいくと思います。


こうして彼女の回復を見守れるのは、とても嬉しいです。今回もお読み下さり、有難うございました。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎