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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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34話 評価の違い






こんにちは、五樹です。僕は先程目を覚ましました。

僕が目を覚ます前、時子は「八人の住人」を読み返してみて、僕達の事を理解出来ないか挑戦していたようです。

でもそうすると、直接に僕や他の人格を刺激してしまうので、途中から僕が目覚める。そんな事はよくあります。


さて、正月気分も落ち着いて過ぎた後、時子の容態も割と安定しています。彼女はまた小説を書くようになりました。今回はそれについて少し話しましょう。


現在時子は、江戸時代を舞台にした小説を書いているのですが、それがまた大変な作業なのです。

まず、時子は江戸時代をほとんど知りません。彼女が時代小説を書き始めた動機は、「落語が好きだから」でした。

ところが、それは問題なのです。落語では、人々が会話しているのが聴こえるだけです。例えば、地名、生活、経済、風俗などの、江戸ならではの文化を詳細に説明してくれる訳ではありません。でも、小説ではそれを書かなければいけないのです。

だから、彼女が1話分を書くには、調べ物が最低1時間は必要です。昔書いていた別の小説では、いちいち方言を調べるために、1話につき5時間も調べ物をしていました。全くあっぱれです。

彼女も今になると「手を出さない方が良かったかな」と思っているようですが、今までで書き切らなかった作品は1つしかありませんし、多分終わりまで書くでしょう。


ところで、彼女は自分の小説を、必要以上に過小評価する癖があります。

「こんなのに評価をもらうなんて申し訳なくなる。もっとちゃんとした作品があるのに」

彼女はいつもそう言っています。それから、こうも言います。

「2時間半掛けたのに、3千字しか書けなかった。調べ物に時間を取られるから…」

僕は、2時間半を全て執筆に掛けたって、3千字なんか書けません。僕がこの小説を1話書くには、1時間掛かるのです。

時子は、1時間半の調べ物をしてから、残り1時間で3千字を書いてしまいます。そのスピードは驚異的と言っていいように思うのですが、彼女にとってはそんなのはなんでもないようです。

たまに喫茶店などに行って小説を書く事もあるのですが、時子があまりに一心不乱にずっとキーボードを叩き続ける様子は、多分、他の客からは異様な光景に見えるだろうと思います。

僕は想像で小説を書く事はありません。やりたくならないからです。でも、時子は想像でいくらでも留まらずに書き続けられる。逆に言うと、そうして書いていないと、日々に潤いを感じられない。

変わった子だなと思いながらも、僕はそれを応援しようと思っています。


今日はあまり生活感の無い話になってしまいましたが、目立って時子の様子が悪くない日は、こんな内容になるかもしれません。それでは、お読み頂き有難うございました。また来て頂けると嬉しいです。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎