八人の住人
30話 新年も相変わらず
明けましておめでとうございます、五樹です。
先ほど時子は、知り合いなどにLINEやTwitterで挨拶をし、早々におせち料理を食べて、入浴をしてから眠りました。
確かに真夜中だけど、夜になってから起きたのに、なぜ眠ってしまったのか。今日は楽しいお正月じゃないかと、僕だって思います。
時子は、こう言い残して眠りました。
「ごはん食べて、お風呂に入ったのに、私ってこうなのね。平常運転が鬱過ぎるなあ」
彼女がその前に考えていた事を、ここに書きましょう。
“この世から私が居なくなって、美しいこの世を眺めるだけになればいいのに。この世が美しいから、そこに汚い自分を居させたくない”
一度聴いただけでは、この言葉は理解出来ません。それに、僕だって彼女がなぜそう思うのかは分からないのです。彼女の記憶を全て写し取っているにも関わらずです。
でも、時子はPTSDを放置した事で、13歳の時に、双極性障害を合併しています。もしかしたら、うつ症状に付随する妄想の一種かもしれません。
うつ病などに合併する妄想に、心気妄想、罪業妄想、貧困妄想という三つがあります。
心気妄想は「重い病気に罹ったのではないか」と妄想する物。
罪業妄想は、「自分は重い罪を犯したから、警察へ行かなければ」などと考えるようになる物。
貧困妄想は、「生活していくのにお金が足りない」と、収入があるにも関わらず思い込む物だそうです。
時子は、過去に自分が犯した罪を、大きい小さいに関わらず、思い出しては自分を強く責め、「私は悪人だから、死ななければいけない」と思い込んでいます。
何も、今日が新年の始まる日だから、節目に思い出して落ち込んだなどという、ヘンテコな物ではありません。彼女は毎日のようにそう考えて、自罰的に日々を生きています。
この件については、次回の精神科の診察で、主治医に相談しなければいけません。
新年が明けたにも関わらず、また暗く重苦しい話をして申し訳ございませんが、時子は正月も休まずに苦しんでいます。
でも、今年も彼女は回復を続け、年末頃にはもう見違えるでしょう。なんだかそんな予感がするのです。
いつも「死にたい」と言い、“こんなに悪い状態が良くなるはずがない”と考えている彼女。
「きっと幸せになれるよ」と言うと、“こんなに生きづらくなる思考回路を持っていて、幸せになんかなれない”と悲観してしまう彼女。
そんな彼女に、思っているより世界は易く優しい事を、今年も伝え続けていければと思います。本当なら、今年中に僕らが居なくなって、統合されるといいのですが。
何はともあれ目出度い正月ですし、外は寒いので皆様暖かくしていましょう。お読み下さり、有難うございました。それでは、また。