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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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29話 カウンセリングルームにて・3






こんばんは、五樹です。本日はカウンセリングの日でした。

夜になって夫君も眠っていますが、一人で起きているのがよっぽど不安だったのか、先程時子は眠り、僕に交代しました。


端的に言えば、今日のカウンセリングは穏やかに済み、トラウマの処理もつつがなく出来たと思います。

カウンセリングルームへの移動、そしてカウンセラーと話をし、タッチセラピーを始めて少しするまでは、僕達の意識は、僕でした。

カウンセラーに体に触れてもらいながら、僕は何度も“時子が目覚めようとしている”と感じましたが、その4度目位で、やっと彼女は目を覚ましました。

昨日から時子は、恐怖感や不安感が強く、恐らくその状態をカウンセラーに見せるのは抵抗があったのでしょう。でも、目覚めた時の時子は、そんな事は忘れていました。

素直になれる心中では、時子はずっと恐ろしがって泣いています。意識の表に出る時には、本人は無意識にそれを隠している。でもそれは、勇気と体力が無ければ出来ない事です。


その後、タッチセラピーをしてもらいながら、カウンセラーと少し雑談をし、一度不安定にはなりましたが、カウンセラーの励ましで時子はすぐに安心したようです。


カウンセリング終わりに少し話をした時、こんな会話がありました。

「最近、怖いとか思う事がどんどん増えてきて、それで現状がどんどん悪くなってるみたいで、不安なんです」

時子が精一杯の不安をそう告げると、カウンセラーは和やかに笑いました。

「ええ、“凍りつき”が解けてくるとそうなります。“凍りつき”の状態は、身を守る為に、感情は出てこないんです。「怖い」と言えるようになったのは、周りが安全なんだって思い始めた証拠なんですよ!」

何か逆説を聞いているような気分になりそうですね。でも確かに、本当に怖い時には、“この場を切り抜けなくちゃ”というプレッシャーで手一杯になってしまいそうです。

「手が付けられない程不安がっている時にはどうしたらいいか」という事を夫君が相談したら、カウンセラーは「それは過去に囚われている状態ですから、景色や、心地よい五感に意識を向けて、“今”を感じられるようにして下さい」と言いました。

それから、「寂しい時に見る為に」と、夫君が時子に喋り掛けるビデオを撮る事も勧められたので、それは帰宅してから撮っていたようです。


話は変わりますが、一昨日、僕は時子に向けてメッセージを残しました。

“僕には、身を呈して君を守ってやる事が出来ない”

そうしたら時子は、こう返事をくれました。

“でも、日々守ってくれているのが分かるから、それでいいと思います!”

涙が出るほど嬉しかった。時子がそう思うようになってくれて、僕が彼女に安心感を与えられる存在になれて、良かった。そう思いました。僕は、「時子」を助ける為に設けられた「五樹」という存在なのですから。

でも僕は、本当に時子を助けてやる事が出来ない。

時子の中の恐怖を取り除いてやる事も、不安を拭ってやる事もできない。

なぜなら、時子という一人の人間から、恐怖に対処出来る部分が分離したのが、「五樹」だからです。

だから、僕の本当にやりたい事を叶える方法は一つしかありません。それは、“統合される時に抵抗しない事”。


本日もお読み頂きまして有難うございました。長々とプライベートな事を書いているだけなので、ご退屈ではございましょうが、またお付き合い頂けると嬉しいです。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎