小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

八人の住人

INDEX|46ページ/152ページ|

次のページ前のページ
 

28話 予行演習






こんばんは、五樹です。今晩は、ちょっとした正念場からお届けしています。


明日はカウンセリングの日なのですが、ここでカウンセラーの言葉を引用しましょう。

「脳って、思ったより働くんです。もうすぐカウンセリングの日だぞって脳が分かると、そのカウンセリングで処理したい事、その時なら処理出来る事を取り出してくるんです。カウンセリングが終わったら、きちんと整理が付くまで、また脳は働く。だから、カウンセリング前後が辛いってクライアントさんは多いですよ」

少し長くなりますが、僕からここに補足を足します。

時子が通っているのは、PTSD専門のカウンセリングです。PTSDとは、過去に処理し切れなかった大きなショック、“トラウマ”が本人を傷付け続けるという病気です。

その処理し切れなかったトラウマに対して、カウンセリングルームの中で、カウンセラーとの対話や、タッチセラピーなどで、少しずつ氷解させていく。この作業をします。

カウンセラーが言うには、前日、前々日から、その予行演習が始まる訳です。

ただ、予行演習の時はカウンセラーも傍に居ませんし、一人で耐えるしかない。頭の中ではどんどん自分に与えられた残酷な苦痛が進んでいき、時子の精神は追い詰められます。

今晩の彼女は酷く不安定になり、夫にしがみついてこう泣き叫んでいました。

「みんな居なくなっちゃう!みんな居なくなっちゃう!みんな居なくなっちゃう!誰も居なくならなければいいのに!私も一人にされちゃう!一人にしないで!」

もはや手の付けようがない興奮状態に耐えてくれた、時子の夫には、感謝する他ありません。


ここで話は逸れますが、もう一度カウンセラーの言葉を引用します。

「今までの時子さんは、恐怖で凍り付く事で安定していたんです。だから、凍りつきが解けたら、安定しなくなるのは当たり前なんですよ」

これにも補足をさせて下さい。

“凍りつき”という言葉は、PTSDのある状態を指す言葉です。

それは、自分の敵である、苦痛や、自分を害する人間などに対した時に、抵抗をやめる事です。

闘うには強過ぎる相手。逃げる訳にもいかない時。そうした時に、人は自分の感覚を極度に鈍くさせたり、記憶から消し去る事で、苦痛を耐え凌ごうとします。

性犯罪被害、虐待、ショックな事故の目撃、身近な者の自死、戦争体験など、どれもその場で逃げたり闘ったりは困難な場合が多いです。

そうした時に心身に起こるのが“凍りつき”だと、カウンセラーは話しました。


時子を取り巻いていた“凍りつき”が解けてきた。

目下の課題は明日のカウンセリングですが、不安定な時はとても手がつけられなくなってしまった時子に、どうしてやればいいのか。明日のカウンセリングでよく聞く必要があります。


今回は話が堅くなってしまい、すみませんでした。お読み下さり有難うございます。カフェインレスのコーヒーも入れたので、僕は少しリラックス、と言えど、この後は投稿の作業をしなければいけませんね。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎