八人の住人
28話 予行演習
こんばんは、五樹です。今晩は、ちょっとした正念場からお届けしています。
明日はカウンセリングの日なのですが、ここでカウンセラーの言葉を引用しましょう。
「脳って、思ったより働くんです。もうすぐカウンセリングの日だぞって脳が分かると、そのカウンセリングで処理したい事、その時なら処理出来る事を取り出してくるんです。カウンセリングが終わったら、きちんと整理が付くまで、また脳は働く。だから、カウンセリング前後が辛いってクライアントさんは多いですよ」
少し長くなりますが、僕からここに補足を足します。
時子が通っているのは、PTSD専門のカウンセリングです。PTSDとは、過去に処理し切れなかった大きなショック、“トラウマ”が本人を傷付け続けるという病気です。
その処理し切れなかったトラウマに対して、カウンセリングルームの中で、カウンセラーとの対話や、タッチセラピーなどで、少しずつ氷解させていく。この作業をします。
カウンセラーが言うには、前日、前々日から、その予行演習が始まる訳です。
ただ、予行演習の時はカウンセラーも傍に居ませんし、一人で耐えるしかない。頭の中ではどんどん自分に与えられた残酷な苦痛が進んでいき、時子の精神は追い詰められます。
今晩の彼女は酷く不安定になり、夫にしがみついてこう泣き叫んでいました。
「みんな居なくなっちゃう!みんな居なくなっちゃう!みんな居なくなっちゃう!誰も居なくならなければいいのに!私も一人にされちゃう!一人にしないで!」
もはや手の付けようがない興奮状態に耐えてくれた、時子の夫には、感謝する他ありません。
ここで話は逸れますが、もう一度カウンセラーの言葉を引用します。
「今までの時子さんは、恐怖で凍り付く事で安定していたんです。だから、凍りつきが解けたら、安定しなくなるのは当たり前なんですよ」
これにも補足をさせて下さい。
“凍りつき”という言葉は、PTSDのある状態を指す言葉です。
それは、自分の敵である、苦痛や、自分を害する人間などに対した時に、抵抗をやめる事です。
闘うには強過ぎる相手。逃げる訳にもいかない時。そうした時に、人は自分の感覚を極度に鈍くさせたり、記憶から消し去る事で、苦痛を耐え凌ごうとします。
性犯罪被害、虐待、ショックな事故の目撃、身近な者の自死、戦争体験など、どれもその場で逃げたり闘ったりは困難な場合が多いです。
そうした時に心身に起こるのが“凍りつき”だと、カウンセラーは話しました。
時子を取り巻いていた“凍りつき”が解けてきた。
目下の課題は明日のカウンセリングですが、不安定な時はとても手がつけられなくなってしまった時子に、どうしてやればいいのか。明日のカウンセリングでよく聞く必要があります。
今回は話が堅くなってしまい、すみませんでした。お読み下さり有難うございます。カフェインレスのコーヒーも入れたので、僕は少しリラックス、と言えど、この後は投稿の作業をしなければいけませんね。それでは、また。