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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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さて、ここで問題があります。

僕は、自分以外の別人格をちゃん付けするのが、とてつもなく嫌だという事です。自分自身をちゃん付けする事は無いので、それは数えません。それに、時子本人の事だって、ちゃん付けは嫌です。

“女の子をちゃん付けする野郎は、馴れ馴れしくて軟派な奴だ”という、時代遅れの観念が、僕には付きまとっているのかもしれません。

という訳で考えたのですが、「ミニ」はどうでしょうか。

多分、夫君は「小さな時子」という意味でちゃん付けにしたのだと思います。それなら、「小さな」の「ミニ」でいいと思うのですが。

「ミニ」本人から「嫌です」と言われたり、彼女がやっぱり名前を欲しがったりしたら、僕が名前を考えようかな、と思いました。「羽根猫」も、名前と言えるのかは分かりませんが、呼び名を考えたのは僕ですから。


それにしても、確かに時子は、5歳の時に、悲惨な家庭から、果敢にも家出を試みました。“家出”なんて言葉も知らない内にです。

その時に、“連れ戻されたら、また酷い目に遭わされるかもしれない”と怯える心を力でねじ伏せていた。そうやって抑え付けられて、いっそ自分が傷付いてでも、家出を敢行した。

上手くいってはいないけど、もちろん初めは愛しいはずだった家族と、別れ別れの道を選ぼうとしていた。

必死で考えて、“もし見つかったら、こう言い訳しよう”と逃げ道も見つけていた。それはとんでもない精神力が必要なはずです。

そんな色々が、ミニを生んだのかもしれません。本当の事は、ミニが目覚めなければ分かりませんが。


今朝、夫君が出かける9時前、ミニが眠る時に、口にした事がありました。

ミニはリビングのテーブルの椅子に座り、窓の方を向いていました。後ろでは、時子の夫がキッチンで何かの作業をしていた。ミニは振り返らず、ぼんやりとこう言います。

「おうちは、よくないよ」


それは、「悠」とはある意味で反対の言葉です。悠はよく、「おうちに一人は、よくないよ」と言います。

悠は、家に家族みんなが居て欲しかった。でも、ミニはそうではありません。

彼女は、家に居る事自体を悪と捉え、“家から出て行かなければ”という思いに駆られています。


時子の夫は、おそらく呑気な声を作ってみて、こう言いました。

「どうして?怖いお母さんが居るから?お母さんもう居ないよ?」

ミニは俯きます。

「そう…」

“そう”とだけ返事をしたら、ミニは眠ってしまいました。


カウンセラーは以前、「ある程度トラウマの処理が進むと、更に処理して欲しい感情が、新しく前に出てくる事があります」と、言っていました。

もしかしたら、それでミニが新しく現れたのかもしれません。でも、彼女はもしかしたら、一時的にしか居ないかもしれない。定着しない人格もたまには居るからです。

僕はこのまま日々を過ごし、名前について悩まされる事がないように祈ろうかな、と思いました。


それでは、本日もお読み下さいまして、有難うございました。また来て下さると、嬉しいです。それでは。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎