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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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八人の住人

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改めて目覚めたのは時子でしたが、彼女は目の前を見て、愕然としたようでした。

「なんで…?無い…あ、コーヒー、冷め切ってるし…なんで…?」

時子が眠る前に胸躍らせていた紅茶も、緑茶も無く、コーヒーは冷めている。

時子はそれから、スマホを手に取りました。僕が残しているかもしれないメッセージに、反撃しようとしたのでしょう。でもそこには、何も無かった。

いくら遡っても僕のツイートはなく、それから、僕のツイートに対して時子が言及しているようなシーンも、全て削除されていました。だから時子は、それにも混乱した。それから時子は酷く落ち込んでいき、また僕が目覚めたという訳です。


僕と桔梗は、反目し合う存在です。元々の目的が、僕達は対極にある。

桔梗は、時子の苦しみを終わらせる為に、全てに終わりを与えたかった存在。今はそれは諦めてくれたけど。

五樹という僕は、明確に意識している最終地点は無いにしても、時子の幸福を願って、その為に努力したいと思っています。だから、桔梗にとっては、ただ邪魔なだけだった。


僕と桔梗は、まだ桔梗がその目的を捨てていなかった頃、その事について話しました。


「出てくるな。お前を出す訳にはいかない」

桔梗が目的を遂げるため、時子を殺そうとした晩の事です。結局出来なかったのは良かった。桔梗はその時、こう言いました。

「これがあの子の本当の望みなのに、私達が叶えてあげなくてどうするの?」


でも、それは本当でしょうか?本当に時子は死にたがっているのでしょうか?

そうだとするなら、こんなにたくさんの人格が出来上がってしまう程、彼女が苦痛から逃れて生き延びた意味は、どこにあるんでしょうか?

僕達は、苦痛の記憶を別の場所に保存して、時子からは見えなくする為、生まれるのです。だとするなら、彼女は、そうまでして生きたかったのでは?そう思う方が自然です。


桔梗は、僕の事をいつも「干渉し過ぎの馬鹿」と言います。それは僕にも分かっている。

でも僕は、時子が苦しい思いをしている時に、それを拭うために働く事でしか、生きてはいけないのです。そうでなければ、僕はすぐに消えてしまう。


今すぐに時子が目覚めたら、「また景色が変わっている、また時間が過ぎている、もうたくさんだ」と悲しむだけでしょう。

僕に出来る事、つまり、僕がやっておいても時子がショックを受けないのは、家事と、入浴くらいです。それで点数を稼いでおかないと、時子には嫌われっぱなしになってしまうかな、と、少し僕も不安ではあります。


それにしても、桔梗は私怨の為に必要な事を投げ捨ててしまうんだと分かったので、これからは彼女に頼み事は出来ないな、と思いました。


複雑な気持ちではありますが、僕は引き続き、水を飲んで、休んでみます。お読み頂き、有難うございました。なんだかいつも目まぐるしくてすみません。それでは、また読みに来て下さると嬉しいです。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎