八人の住人
18話 反目し合う人格
おはようございます、五樹です。先ほど、時子、それから僕、あとは桔梗の3人で、それぞれコーヒー、緑茶、紅茶を飲んでしまいました。僕は今、動悸が酷いです。
でも、これは全て時子が用意して、一人で飲もうと思っていた分です。
コーヒーと紅茶を少しずつ飲んだ時点で僕に交代し、そんなにたくさんカフェインを摂るのは、やめさせないといけないと、僕は思いました。
だから、僕がちょっと飲みたかった緑茶を一口二口飲んで、残りを捨てようかと思ったのです。しかし、そうしたら時子に恨まれてしまう。
眠る為に心中深くに引き返していった時子は、今日は不安定だったから、僕は恨まれていました。
時子が不安定になれば僕が現れますが、それが更に彼女に混乱を招く。「どうして混乱してるのに、時間を奪うの」と彼女は泣く。
夜の9時くらいに叔母に電話をしていた時にも、時子は僕をあまり良く思っていないような話をしていました。
だから、僕はまず、そういう時の応急処置的な対処法として、重要な物以外は、Twitterの僕のつぶやきを消そうと思いました。そうすれば、僕の存在は遠ざかるので、“なんで消したんだろう?”とは訝りながらも、時子は安心してくれます。
ここからの説明はかなり長いですが、なるべく分かりやすくなるように努めます。
目立って最近と思しき物で、残しておかないと困るツイート以外を、僕は消していこうと思っていました。でも、僕も途中で酷く眠くなったのです。それは、桔梗が目覚めたがっていたから。
“仕方ない。ここは桔梗にお願いしよう”
僕が目を開けると、それは、別人格達が住む、フラットの目の前でした。
桔梗が、一番端の自室から出てきた所です。
「頼む、後をやっておいて」
そう言うと、桔梗はすぐに足を踏み出して、こう言いました。
「あんたは干渉し過ぎなのよ。だからこうなる。馬鹿」
“そう言われても、交代を迫られたら、やらない訳にはいかないんだけど…元々、誰と交代するかは、時子が決めているんだし”
そうは思いましたが、僕はひとまず部屋に戻って、電気を消しました。僕達は、自室の電気を消さなければ交代出来ません。
その後、表に現れた桔梗が行ったのは、確かにツイートの削除ではあったのです。でも、それは、僕の存在を示唆する物全てでした。
食事の記録も、服薬を何時にしたのかも、僕がこの子に伝えたかった重要事項についても。時子が僕の発言に言い返したツイートも、全てです。それをしている時の桔梗は楽しそうで、尚且つ彼女は怒っていた。僕はそう感じました。
そうしている内に、桔梗は、400mlもあった紅茶をすっかり飲んで、ティーカップやティーサーバーも全て洗い、元の場所に戻します。そうして彼女は、満足して引き返して来ました。
桔梗が眠る前、僕は声を掛けたのですが、同じ事を言われました。
“なんて事をしてくれたんだ。これじゃ何も分からないじゃないか”
“うるさいわね馬鹿”
彼女は短くそう言っただけで、自室の扉を閉じ、電気を消します。
僕は桔梗からは嫌われています。
多分彼女は、“絶好の機会”と思って、仮初にも、僕の存在を一切消しに掛かったんだと思います。