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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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八人の住人

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僕達は今晩、昼に飲んだ睡眠導入剤での眠りから、夜に目覚めました。

そうして起きた時子でしたが、「こんな夜中に目覚めて、また一人の夜を過ごすの?」と、失望し、すぐに僕に交代しました。

でも、仕事から帰宅した夫が食事をテーブルに並べ始めた時、彼女はまた目を覚ましたのです。


では、なぜ今、また僕が喋っているのでしょう。時子はもう一度眠る前に、こう言っていました。


「なんだか不安なの。常に息苦しいし、お先真っ暗って感じがして、今が辛いの」

夫は、時子にこう聞きます。

「何が不安なの?」

「よくは分からない…でも、今は働けていないし、いつになるのか分からない、だから…そのままじゃ収入が増える事は絶対にないし、不安で…」

これらの言葉を時子の内側から聞いていた僕は、“まるで、一人暮らしをしている女性が、知人の男性に相談をしているようだ”と感じました。

時子は、主婦です。そして、まだまだ病中です。彼女には、仕事をしている夫がついてくれています。

それなのに、それらの事情を全く無視したように、彼女は自分の収入が少ない事を嘆いている。

これも実は、過去に由来します。


この子の母親は、いわゆる「教育ママ」であり、更に「いい大学に行き、いい会社に入る」を思想として持つ人の、一番悪い部類でした。

まだ10歳、12歳位の頃から、時子は様々な事を教え込まれました。

習い事に通わせるだけではありません。

喋り方や、言葉遣い、立ち居振る舞いや、物事に当たる時の思想、何を問題と捉え、それらに対処するために何を心得とすれば良いのか。

簡単な例だと、時子はいつも、「5W1Hで喋りなさい!」と叱られていました。

それら全てを、母親は時子に教えようとした。罰を携えて。

ただ教えようとするだけなら良かったのです。ですが、守れない時、間違えた時には、罰として数時間の叱責や、屈辱的な事をしなければいけない決まりがあった。

そんな母親の最終目標は、「娘がよい仕事を得て、稼げるようになる事」。多分、時子はそれを強く強く意識してはいるけど、自分ではもう忘れてしまっていて、今まで言葉に出来なかった。でも、今晩初めて、出来たんです。


少しずつですが、時子は変わっていっている。これまでずっと気づかなかった事を、言葉に出来るようになった。

でもそれを彼女が前進と捉えてくれるかは分からない。いや、むしろ後退と見るでしょう。

多分彼女は、「前よりも愚痴っぽくなって、いけない事だ」と思うと思います。でも、まずは吐き出す事から始めなければ。僕はそう思います。それでいいんです。


今日は少し長くなってしまいましたね。全く個人的な事情を書いているだけなのに、お読み頂けるのは有難いです。また、読みに来て頂けますと有難いです。それでは。



作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎