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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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八人の住人

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今朝の時子の話をしましょう。

今朝、時子は、午前2時に起きました。

本当なら二度寝をして、もっと体を休めて欲しかった。4時間しか眠っていなかったのですから。

でも、彼女は大好物のコーヒーを2杯も飲んでしまいました。

時子の夫は、コーヒーが本当に大好きで、特別に美味しい豆を家に揃えています。そして、時子もコーヒーが好き。でも、ろくに眠れていない時にも躊躇して飲んでしまう時子に、僕はいつも困るのです。

コーヒーを飲んだ後は、皿洗いをしたり洗濯物を畳んだりと、時子は主婦である事に必死でした。

時子はよく、「トイレに行くのに立ち上がるのも辛いなあ」と考えています。そんな人間に、誰が家事を強制するでしょうか。彼女は、毎日の入浴も苦痛で、出来ない状態です。家事なんかしている場合ではありません。

そして、家事が終わってからは、時子は3時頃から、音楽を聴き始めました。

時子が聴いていた音楽は、苦しみの音楽でした。

「六人の住人」でも、時子が好んで聴く音楽を、“聴いているだけで傷付くほどに情感的な音楽”と僕は書きました。

今朝時子が聴いていたのは、すでに没したミュージシャンの曲で、「どうかこの苦しみから解放してくれ」と訴えるような曲でした。

時子は感受性がとても強く、影響されて揺れる自分を止める事が出来ません。でも、彼女はそんな自分が好きではないのです。

彼女は音楽を聴いて泣きながら、こう思っていました。

“自分のものでもない悲しみを、勝手に借りて、感傷に酔うために泣くなんて、失礼極まりない。私はダメな奴だ”

人の悲しみに共感している時に、そんな事まで考え始めれば、人の心は耐えられるはずがありません。

それに、たとえばこの世には、人の悲しみになど構いもしないで、自分の考えを押し付けたり、ともすれば嘲笑うような人だって居ます。それと比べれば、一緒に泣いてくれる人だって、居ていいじゃないですか。でも、時子はそう思わない。

その曲が終わらない内に、悲しみや苦痛に耐えられなかった時子は眠りに就き、僕が目覚めました。


僕はそれから、歯を磨いたり、カウンセリングルームでカウンセラーに教わった、気持ちが楽になる体操をしたりしました。


時子が、自分の生活を気遣う余裕も無い事。自分を痛め付ける事に何の抵抗も無い事。僕は時に、それに困ってしまうのです。

そんなに自分ばかり責めないで欲しい。そんなに頑張り過ぎないで欲しい。そう言っても、彼女は多分、聞いてくれません。自分を大切にする事を、教わらなかったから。

少しずつ、夫に愛されている事を理解して、自分を大事にしてくれるといいなと、僕は思います。

とりあえず、今日は5時になったら食事をして、薬を飲もうと思います。

いつもお読み頂き、とても有難いです。また来て下さると嬉しいです。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎