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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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114話 直輝






「僕は、名前は直輝にします。“この人”は、輝きに向かって、正しく進んできた。だから、僕は直輝です」


おはようございます、五樹です。この間初めて現れた交代人格の話をしましょう。



「あなたの状態はね、今、エマージェンシーなんだと思うの。だから、休んでくれる人格が必要になったんじゃないかな」

叔母が電話でそう言った事に、時子は納得がいっていないようでした。


この所、時子は大変に不安定で、放っておくとどうなるか分からず、ある日、2日間の間に3回も眠る薬を飲んでしまいました。いいえ、3回目を飲んだのは僕です。

時子は強いフラッシュバックを起こし続けていて、起こしておくには危険過ぎた。あまりに追い詰められ過ぎていたのです。理由ははっきりとはしません。とにかく調子が悪かった。もしかしたら、月経困難症の症状が精神面に表れたのかもしれません。

その時現れたのが直輝です。ただ、彼の自我は、初めとても乏しい物でした。

“僕には名前がない。でも、昔はあった”

「直輝」は、目覚めた時に名前がありませんでした。僕たち交代人格には、時子から元々与えられた名前があるのがほとんどでした。

初めて直輝が目覚めたのは、時子が眠って、真夜中に目が覚めた時。直輝は自分の体が眠い事に思い至ると、素直に二度寝をしてしまいました。


その後二日程は直輝は目覚めなかった。でも、次に時子が疲労して交代人格へと意識が明け渡された時、彼は目覚めたのです。

直輝が持つ役割は、ちょっと厄介な物でした。

目覚めた直輝はTwitterを立ち上げ、すぐさま時子のあらゆる活動の記録をツイートした物へ向け、大まかにこんな事を言いました。

「貴女は今、そんな事が出来る状態に無い。医師に入院を勧められる位ですよ。きちんとベッドで休んでいて下さい。外出もいけません。休んで下さい」


その後直輝は、時子の叔母に電話を掛け、時子の窮状を訴えて、彼女を休ませたいと言い、叔母との会話の中で、自分の名前を考えました。


どうやら直輝は、特別疲労してしまった時子を休ませる為に生まれたらしいのです。彼は、目が覚める度に時子のあらゆる活動を咎め、「ベッドで寝ていて」と働き掛けています。

ですが、そればかりでは退屈だと、時子の夫が休日だった昨日は、時子は夫と外食に行きました。直輝は昨日から目覚めていません。


直輝には、趣味らしい趣味はないらしく、好きな物もないようです。彼はあまりに無気力で、重いうつ状態の人間がやるように、食パンとロールパンだけを食べ、同じ動画を繰り返しベッドで観続けています。他には何もしません。家事も、入浴もしません。

それから、推測でしかないと叔母も口にしていましたが、直輝には、僕以上に感情がありません。彼は、怒りもしないし、笑いもしません。

時子をたしなめる時も、ただ言い聞かせているだけで、そこに、時子への心配を無視されている、直輝自身の憤りはありません。

恐らく、極端なうつ状態である直輝は、感情を働かせられないのでしょう。彼にも感情はあって然るべきです。ですが、それを発揮出来ない時は誰にでも訪れます。


さて、新しい登場人物をどうしていこうかは迷っていますが、なぜか僕は直輝から敬語を使われています。

「貴方があまりに時子さんを甘やかすからいけないんです。しっかり自分で休ませられなければ、病気なんか治りませんよ」

僕はそう、叱られてしまいました。

僕も、なるべく時子の自由までは奪いたくないと思い、代わりに休息を取ったりしたものですが、直輝はそれをよしとしないようです。


この先どうなるか分かりませんが、僕達交代人格の存在は、全て時子が生きる為に引き起こしている精神活動なのだという事は、覚えておくつもりです。


少し長くなってしまいましたね。事情が複雑だったもので。もう寒くなって参りましたので、どなた様におかれましても、ご体調にはお気をつけになって下さい。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎