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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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112話 悠の旅立ち、時子の歩み






こんばんは、五樹です。今日の僕達の目覚めは、昨晩8時でした。

順を追って、目覚めてからの話をします。


もちろん、目が覚めた時には、悠でした。彼はとても怖がっていた。前日に僕と彰が酒を飲んだ事で、酩酊によるフラッシュバックを起こしてしまっていたからです。

「恐怖症恐怖症」というものがあります。悠はそれに近かった。パニック障害などを持っている人が、「また発作が起きたらどうしよう」と、恐怖症を恐怖する症状です。

もちろん、僕、五樹や、彰は、酒を飲んでも楽しくなるだけです。量には気を付けなくてはいけませんが。しかし、悠はそれにより発作を起こしてしまったので、彼は「もう一度あれが来たらどうしよう、どうしよう」と、ずっと怖がっていました。本当に申し訳ない。


そして、夫君が帰宅し、悠は言い聞かされて大人しくなります。

「大丈夫。お酒を飲んだ時になるだけだよ。五樹お兄ちゃんは、もう飲まないって言ってた。ごめんなさいって。だから、もう大丈夫だよ」

「そっかあ!それなら悠くん、安心だよ〜!」

元気よく返事をして、それから、食事をしたり、コーヒーを飲んだりして、悠は素直に楽しんでいました。しかし、また恐怖が襲ってきたのです。


背中がムズムズと騒いで、まるで寒気がしているよう。なんだか怖い。そう思って、悠は布団に入りました。隣には、もう2時だったので、眠っている夫君が、鼾をかいています。

そして悠は、時子に向けてこう言い、その後、居なくなりました。

「時子ちゃん、もう僕は表現し終わったよ。大人にもなれた。君が見ていた残酷な世界は、もう無いんだ。君が求めた、残酷な世界の浄化は、できない。でも、君の前には柔らかな幸福がある。僕は君に羽根を残していける。あとは心配しないで」

大まかに、こんな所です。少し長くて、個人的な事を含むので、説明が長くならないようにするなら。


人格の統合前は、どの人格も、怖がるか、悲しんだり、大きな情動が起きます。


目が覚めた時子は、「悠くんが居なくなってしまった。たった一人の彼の自我は、もうこの世にない。でも、私になったんだ。彼の残した言葉を見ると、自分が言った事なんだと、確かに理解出来る」と、混乱していました。


統合がこれ一度で上手くいくとは限りませんし、もし時子の状態が酷く悪くなれば、また悠は現れるでしょう。しかし、今は彼は時子として生きています。

短い間でしたが、いや、少し長かったかな?ほとんどの時間、時子を恐怖から守ってくれた悠には、ありがとうの言葉を贈りましょう。

僕も、今夜、時子からこう言われました。

「五樹さんは私を危機から救い出す人だし、人間の一生は、危機を必ず想定しているから、居なくなる事はなさそう。ていうか、居なくならないで欲しい。一生居て欲しい。あんなに怜悧で決断力があって、優しい人は居ないもの」

僕は、怜悧という程理性に優れた者ではありません。決断力は、桔梗には負けます。しかし、君に優しくしたいという気持ちはあります。

人格達は、主人格に本気で受け止めてもらえた日を、誕生日にしたがります。

僕達は、忘れていなければ生きていけなかった程辛い記憶から生まれるので、自分が受け止めたショックが起きたのが何月何日なのかは、覚えておけません。ひとまず、僕の誕生日は今日でいいでしょう。


時子が、外部の人間関係に委ねられない自分の中核を、彼女に守れないとするなら、僕がやればいいとは思います。一生出来るのかは、ちょっと分かりませんが。自分で出来る方が、不都合は減りますしね。


本日は大展開でしたね。お読み下さり、有難うございました。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎