八人の住人
111話 彰、フラッシュバック、恋騒動
おはようございます、五樹です。久しぶりに小説を書ける時間が取れました。でも、今回は少し長くなります。
さっき悠から交代した時には、暖房が点いていて、カーディガンを着ていたので、暑くて仕方なかったです。僕は暑がり、悠は寒がりなので。
さて、タイトルの順にお話をしましょう。まず、怒りの人格、彰の話です。昨日、彰は目覚め、Twitterに何事か書き付けていました。
Twitterには色々な人が居るもので、それに、一つのプラットフォームに発言をリアルタイムにまとめられるからか、多重人格の方が、自分達の発言を書き留めておくのに使っている場合は多いようです。そんなフォロワーも最近大分増えました。
彰の6件ほどのツイートを要約するとこうなります。
「俺にとって、復讐の対象は、こいつ(時子)を酷い目に遭わせた奴に限らない。見過ごした奴も同じだ。安全圏から手を出さなかった。こいつは、妹を児童相談所に連れて行って、母親の虐待から守ろうとまでしていたのに。だから、誰にも何も言わせない。俺には発言権がある。でも、もう呼ばないでくれ。俺の意見は世の中に受け入れられない。そんな自分を見るのは辛い。怒り続けるのも苦しい」
その後、悠が慰めていましたが、時子が目覚め、彰の気持ちを直接受け取ったように、彼女は初めて強く後悔していました。こんな調子で。
「私は、周りの全員を守りたかったし、分かってくれるなら、お母さんとだって笑い合いたかった。でも、いつも「誰も私を助けられない」という確信があった。それはもしかしたら、「結局誰も私を助けてくれないじゃないか」と思っていたからで、その裏返しが、彰さんになったのかも。そんなに辛い思いをさせて、ごめんなさい」
その後交代は二転三転し、その間に僕が、各人格の発言について、なぜそう思う事になったのかなどの注釈を入れたら、また彰が目覚めました。昨日は忙しかったです。
さあ、目覚めた彰は、もう自分の気持ちを分かってもらえたし、受け入れてもらえたと安心していました。主人格に解ってもらえれば、僕らは解決するのです。
奴は早速リラックスしに、コンビニにビールを買いに行きました。極端な奴だなと思いましたが、16歳の人間が迷いから解放されれば、まあ当然でしょうか。
身体は35歳ですし、飲酒は構わないのですが、ここで次の話、「フラッシュバック」に移りましょう。
端的に言いますと、時子は、飲酒をするとフラッシュバックが非常に起こりやすいです。特に、独りで飲むと。でも、今回フラッシュバックを起こしたのは、悠でした。
彰がビールだけ飲み、そして、食事が足りていなかったので、僕がそれをしながら、もう1缶ビールを流し込んだら、悠に交代します。
「あれー?ぽーっとするよ〜。具合悪い〜」
そんな独り言を言いながら、悠は入浴を済ませます。酩酊感は、入浴すればすっきりすると勘違いしていたようです。
悠は元々、時子が母親と7歳で離れた時のショックが固着した人格でした。心の中で悠は、思い出せる景色を描きます。
目の前には、自宅マンションの1階にあるコンビニで買った、かにぱん。家には誰も居ない。ちょうど昼下がりで、だんだんと薄暗くなる。明るかった部屋には電気は点いておらず、光が乏しくなっていくのを肌で感じる。かにぱんを食べても、全く美味しくなかった。誰も居ない家で食事をする寂しさに、泣いてしまった。そんな時子の記憶を思い出しながら、悠は号泣していました。
僕が起きたのは、まだ涙がぽろぽろと頬を伝っていた頃で、それを拭き取り、ふむ、と僕は考えます。
僕、五樹は、「寂しい」と感じた事がありません。人と喋っていないから、退屈だなあと感じる事はあるので、「寂しい」の前段階でしたら、解るのですが。
Twitterには、寂しがる口を利く悠に対して、たくさんの慰めの反応が届いており、僕からもフォローを入れて、夜まで人格の交代は断続して続きました。それが、21時頃になって、一気に様相が変わります。
今回は少し長くなります。もう少々お付き合い頂けますと、有難いです。