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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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110話 キミの始まりの日






おはようございます、皆さん。五樹です。本日は、とても良い報告があります。


今日は時子の誕生日です。僕は先ほど時子と交代し、代わりに食事を摂った所です。交代する前の時子の心境をお話すれば、なぜ僕が喜んでいるのか、お分かり頂けるでしょう。


“ああ、この人大丈夫かな…”

時子が見ていたのは、Twitterの画面。(今は“X”でしょうかね)。

人が悩む気持ちを吐き出したツイートを、時子は眺めていました。ですが、彼女はそれをすぐにスクロールします。

“私も最近、フラッシュバックとか、別人格とか、もう辛過ぎて…そっか、私、もう、自分の世界を守るためには、人の力になる事も、出来ないな…”

その時時子は立ち止まりました。

“待ってよ。じゃあ私は何のために生きていくの?何のために生まれたの?”

この問いが生まれてくるのが、人に優しい時子らしいと思いますが、その後時子は、こう悟ります。

“そうか。私は弱い人間だから、自分の幸福もないと、人の力になる事は出来ないんだ。一生を苦しんだままでも思いやりを使い続けられるなんて、甘い考えだったんだ!”

甘いというか、そんなのは出来る人間は居ないのですが、その後時子はみるみるうちに、前向きになっていきました。

“そうだ。これからは自分に幸福を与えてやろう。方法は分からないけど、幸福を欲しがっても、いいのね。幸福がなければ人の力になれないなら、幸福を欲しがっても、悪くはないわね!”

どこから説明してやればいいのか迷う程に、思い込みや刷り込みで曇った思考回路ですが、続けます。
“それなら、私はこのまま苦しむ人生なんか選択しないで、一刻も早く回復するために、幸福を得なくちゃいけないわ。さあ、新しく処方された薬を飲もう!”


そして、食前にと指定された漢方薬を時子が飲んだ後で、僕、五樹が出てきて、食事をした訳です。

ここまでもし続けてこの小説を読んだ方がいらっしゃいますでしょうか?そうしたら、自分に幸福を与えてやる事すら怖がる時子がこう思ってくれたのが、とんでもない事だと、分かると思います。

とにかく僕はほっとしました。これで、方針としては、時子はこれから苦労をせずに済みます。

些末な苦労はあるでしょうし、まだまだ、日常を包むフラッシュバックから逃れ切った訳でもありませんが、「苦しいままでも誰かのために生きる」という時子の決定は、覆されました。


今日はめでたい誕生日になりました。皆様いつもお読み頂き、有難うございます。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎