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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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101話 医師のアドバイス






こんにちは、五樹です。今回は、先日の精神科での診察から、短く書きますね。


「どうですか?調子の方は…」

精神科の医師は、慎重にこちらを窺って、診察室に入った僕にそう聞きます。僕はこう答えました。

「あまりまとまって眠れていないんです」

「そうですか…」

そこで医師は、一緒に診察室に入った夫君の方を向き、こう言います。

「今は?解離はしてますか?」

僕達はいつもそう聞かれます。それは、少なからず僕を嫌な気持ちにさせました。なぜかはよく分かりませんが。

夫君は「してます」と答えます。すると、精神科医は、ほとんど僕の方を見なくなります。もしかしたら、それが僕は嫌なのかもしれません。

その診察で、あまりよく眠れない事、落ち込みは減った事などを話し、DIDについてはほとんど語りませんでした。

精神科の主治医は、時子が時折人格交代をするようになったと聴いた時、「そうですか、でも私は専門じゃないから、ちょっと分からないんですけど…」と言いました。

始めの内は、「その内に治まると思いますよ」と医師は言っていましたが、状況は逆になってしまったのです。


その日の診察で、主治医はこう言いました。

「解離の方がね、全然良くなってないなら、転院はどうですか?どこそこに、こんな先生が居て、解離性同一性障害の専門なんですけど…ここじゃあ専門で診られないから…」

新しいカウンセラーとは打ち解けるのが難しいと感じていた僕達は、医師のアドバイスを前向きに検討する事にしました。


今までDIDを診てくれていたカウンセリングの療法は、身体との連動を主としていました。それはトラウマを思い出すのではなく、身体から溜まったストレスを抜く事で、脳の認識さえ変化させるという物です。

転院先の医師が採るのは、トラウマとなった事象を全て言語化し、それに整理を与えていくというやり方でした。

辛い記憶をいつも掘り返さなければいけない事を、時子は辛いと思わないでしょうか。それで嫌になって、診察に行く事を怖がったりしないでしょうか。

それに、言語化するカウンセリングは以前に10年間通ったのに、時子はいつも元気な振りをしていて、上手くいかなかったのです。

夫君はそれについて、「時子は芯がとても強いから、大丈夫だと思う」と言っていましたが、僕は心配です。


でも、先にまだたどり着かない内に不安がっても仕方ないので、今は紹介状を書いてもらうまで、今まで通りの生活を続けようと思います。


いつもお読み頂き有難うございます。お暑い折ですので、どなた様もお体にお気を付け下さい。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎