小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

八人の住人

INDEX|119ページ/152ページ|

次のページ前のページ
 

100話 脳内会議






こんばんは、五樹です。先の更新から1週間程ですね。


僕も驚きましたが、「統合した時子」に言い負かされてから少しして、「弱々しい時子」は、僕達と自由に対話が出来るようになり、僕達の記憶も共有出来るようになりました。

強がっていた「統合した時子」が誰だったのかは、僕にもよく分かりません。彼女が現れる時は、僕も眠っていましたから。

どうして、今まで出来なかった記憶の共有と、脳内会議が出来るようになったのかも、僕は見通せませんでした。

彼女、「統合した時子」が居なくなってから、時子は心中に眠っている時でも、しょっちゅう僕に要求を言うようになりました。

前は、時子が眠っていて別人格が目覚めている時は、主人格の時子は全く眠っていました。だから、記憶も対話も不可能でした。僕達の間には、分厚い壁があったように思います。それがどうやら決壊したのです。


記憶の共有をするようになって、僕はこっそりと自分の好きな物を食べたり、ちょっと刺激的な動画を観たりする事は出来なくなりました。

ポテチを食べようかなと思うと「ダメ!」と聴こえてきて、怖い動画や写真は「やめて!」と言われます。

でも、前よりも時子は僕を怖がらなくなったので、非常識な事は拒否されますが、常識の範囲内であれば、怒られる事は減りました。以前は食事をしていただけで怒られたものですが。


“脳内会議”という単語をご存知の方もいらっしゃるかもしれません。それはどうやら別人格全員か、もしくは数人が参加して話し合う物のようですが、時子がまだ少し僕達を怖がっているのか、主人格も参加して、というのはあまりやっていません。

でも僕は、脳内会議に主人格も参加出来るとは知りませんでした。それはどうやら可能なようだと、時子の叔母は言っていました。

時子は、僕の事は気に入ってくれているようなので、僕とはよく会話をします。

これは、今日、時子の夫に頼む買い物について、僕が夫君にLINEをしていた時の話です。


僕は、LINEにこう打っていました。

「買い物は牛乳ぐらいかな。他は特にありません。お願いします。」

すると、頭の中で、時子が「ドーナツ!ドーナツー!」と叫ぶ声がしました。なので、僕は返事をして、少し会話しました。

“却下します”これは僕。

“えー!”これは時子。

“えーじゃない。ドーナツは、砂糖を使わずに作っている会社はないでしょ。君この間パフェを食べたばかりじゃないか”

“やだー!ドーナツー!”

“ダメです。この後、砂糖無しのチョコレートでチョコレートミルクを作るから、それを飲んでなさい”

“はーい…”


脳内会議って、こういう物なんでしょうか?どうも生活感に溢れていて、サイコホラー映画などでよく観る、差し迫った状況ではないなと思いました。まあでも、人の生活の多くは、さして重要でない事ばかりでしょう。


僕がチョコレートミルクを作ったからかは分かりませんが、時子は、さっき起きて家事をしてから、深煎りコーヒーを淹れてくれました。

コーヒーをテーブルに置き、僕に交代した時子。僕を呼び出すのも大分スムーズになったと思います。

まるで僕達は、この状態が自然であり、病ではないかのように、もう誰も多重人格である事に悩んでいません。それは、時子が僕達の記憶を見る事が出来るようになったので、“得体の知れない者達”と思わなくなったからだと思います。

でも、「悠」だけは未だに「自分は時子という女性の別人格である」とは知りません。彼の存在の特性上、それは仕方ないと思います。課題が無い訳ではありません。


このように、状況は変わっていきます。でも、よい方へ変わったなと思いました。

いつもお読み頂き有難うございます。早いもので、この小説も100話になりました。もちろん、病気が治って連載が終わるに越した事はありませんが、こうして病の中を歩んで行くのに、読者の方がいらっしゃれば心強いと思いますし、有難いです。これからもどうぞ、よろしくお願いします。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎