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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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98話 希望は地道に






続けて、こんばんは。五樹です。二回連続のアップロードで、申し訳ありません。


僕は、この子を救える方法など、ずっと前から分かっていました。桔梗も言っていました。

世の中には、生きている事ですでに苦痛を目いっぱい背負ってしまう人が居るんです。

幼い頃から暴力に晒されて、人間全員への恐怖を抱え、感覚や価値観を捻じ曲げに捻じ曲げられたため俗世に馴染めなくなり、毎日を苦痛に思うしか出来ない人が。そんな人を救える方法は、そう多くありません。


時子は、「眠る」と言いました。もちろん人格が統合されれば、また時子の自意識は目覚めます。でも、もし主人格である時の「弱々しい時子」を救ってやりたいなら、初めから、眠らせておいてやれば良かったのかもしれません。


「弱々しい時子」は、追い詰められた時、ある映画の主人公を思い描きます。前にこの小説でも話したと思います。

母親に捨てられて僧院で育ち、物置で見た聖像にパンとワインを供えていたら、「母の居る天国へ連れて行ってやる」とキリストに連れられて行った、幼きマルセリーノ。

時子は、「マルセリーノがうらやましい」と言います。時子にとって、母親との和解と、天国へ至る道が一気に来れば、願ったり叶ったりなのでしょう。


人は、絶望を前にしてどのように自分を支えてやったらいいと思いますか。それは、やけっぱちでない形で、のびのびと、満足ゆくまで好きな事をする事です。そして、きちんと眠り、美味と感じる物を充分に食べる。これが揃って初めて、人は自由だと言えます。

僕は諦めてはなりません。この子が諦めてしまったなら、なおさらです。


いつも読んで下さって、有難うございます。今後とも、どうぞよろしくお願いします。それでは、また。





作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎