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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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88話 通院・興奮・薬






こんばんは、五樹です。今回は、時節も関わる話をします。


昨日、僕はある悲惨な事件についてのニュースを読んでいました。

内容の確認が済んで僕はウィンドウを閉じましたが、もしかしたら、それが良くなかったのかもしれません。


今朝、僕達は精神科の通院日でした。夫君と、「繰り返し薬を飲んでしまうから、少し余るように、通院日を早めにしてもらおう」など、その場しのぎについての事を話し、僕達は家を出ました。

病院に着く直前は、表に出ていたのは、まだ僕でした。でも、不意に眠くなり、僕は交代の予感を感じました。

“待合室で人目に触れても大丈夫なのか”と僕は危ぶみましたが、どうやら大丈夫ではなかったようです。


病院の駐車場を出て受付を済ませ、待合室が怖いと言って時子は車に戻りたがったので、夫君が代わりに順番待ちをしてくれて、時子は車内で呼ばれるのを待っていました。

しかし時子の心中にはちらちらとイラつきが見え始め、段々とそれは高揚し、時子は「みんな死ねばいいのに」と、明確に意識の中で考え始めてしまったのです。


人は、孤独と無理解、それから抑圧を受け続けると、暴発するようにそのストレスを解消させようとします。悲惨な事件の裏には、必ずそれがあります。

もちろんそれは被疑者を擁護してはくれません。した事はした事です。この子もそれを解っています。だから、ずっと前から、時子はこういった危機感を持っていました。

“私は、人を殺してしまう位のストレスは持ってる。駄目よ。絶対にそんな事をしないように、いつも注意しなくちゃ”

産まれる前から母親に虐げられ、産まれてからは20歳位まで、それが続いた時子は、持ち切れないストレスを他者には向けないようにと、必死に自分を支えました。

ですが、昨日僕はある事件について情報を追いかけ、もしかしたら時子は、無意識下にそれを受け取ってしまったかもしれません。

前に書いた話で、「僕達は全員が周囲の環境を見て、その時安全と感じた人格が表に出る」という話はしました。つまり、時子は僕が開いていたウェブの画面を、一緒に見ていたのと変わらなかったのではと、僕は思いました。

社会に大きなショックをもたらす事件の起こった時に、病人が体調を崩す事は、よくあるのです。


その後、診察までに時子は、ずっとこう考えていました。

“頼むから、今は誰も私を攻撃しないで。絶対に反撃の機会を与えないで”

その願いに耐えられなかった時子は車内で僕に交代し、診察室に入ったのは僕でした。


「どう、ですか?調子は…」

心配そうに聞く担当医に、僕はこう言いました。

「非常に良くないです。特に昨日から。もしかしたら、あの事件があった事で、不安定なのかもしれません」

すると医師はすぐに、納得したように心配そうな顔になり、「ああ〜…」と溜息を吐きました。

「人への敵意を止められず、僕に交代したんです」

「もしそうなら、そういう時はカウンセリングはやめた方がいいかも。内面にアクセスするのは、今は危険かもしれないですね」

それは、意外なアドバイスでした。

「そうなんですか?」

そう聞くと、医師は二つ三つ頷きます。

「ええ、ちょっとね、カウンセリングにも大分影響は受けますから…」

僕はすぐ頭を切り替えました。

「カウンセリングを控えた方がいい時の条件は?」

「攻撃的になってる時、凄く不安定な時とかは、少し落ち着くのを待ってからの方がいいと思います」

「そうですか。有難うございます。貴重なアドバイスをもらえて、有難いです」

「いえいえ。では、薬はいつもの通りに?」

そこで夫君が話を始めました。

「実は、薬を飲んでも4時間位しか眠れていないんです」

「じゃあ、薬を少し調整しますか。1錠これを足しますから、それで様子を見て下さい」

「有難うございます」


診察は無事に済み、帰宅して僕、五樹はすぐに寝る薬を飲み、時子を眠らせました。

ですが、夜になってから目覚めても時子はどこかまだ不安定でした。なので、先程また寝る薬を飲んだところです。

軽度の処方箋薬依存が始まっているのを分かっていながら、時子の気持ちを休めてやるのには、眠らせる以外の方法が思いつきません。


もう大分眠気が迫っています。投稿を終えたら休む事にします。

今回は少し重苦しい話になってしまい、すみません。皆様も、身の安全には気を付けて下さい。お読み下さいまして有難うございました。またお話を聞いて下さると有難いです。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎