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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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83話 近頃の悩み






お久しぶりです、五樹です。更新は2週間ぶり程でしょうか。


今回は、近頃の僕の悩みについて話しましょう。それはほとんど、食事についてです。


時子は最近、食事をパンだけで済ませるようになってしまいました。

PTSDから誘発されたうつ状態に彼女は悩まされていますが、うつ状態においては、食事への関心が大きく削がれるのも特徴です。

まだ食べられなくなってはいませんが、時子が興味が持てる食べ物が、もう大好きな「パン」しか無いようなのです。

糖尿病を患っているのに、野菜を食べる元気が無い。もちろん運動をする元気も無い。食事は糖質の高いパンだけ。これでは体調がどんどん崩れてしまいます。


そこへ追い討ちを掛けるように、彼女はよくドーナツを食べるようになりました。

現在彼女が進んで食べられる物は、パンと、それに添えたコーンスープ、間食のドーナツだけです。

それは、カウンセリングで言われた、「気分が上がる食べ物を食べるのもよいですよ」という言葉に由来すると思われます。

もちろん、普通の人であれば、即不健康に傾く物でもないと思います。ですが時子は糖尿病で、運動も出来ないうつ状態なので、そこに砂糖たっぷりのドーナツは、ちょっとやめて欲しいと思っています。


しかし、時子が手に出来る現実の幸福は、決して多くはありません。少な過ぎると言ってよいでしょう。


時子は、意識があれば即ち傷付きます。彼女の中には、母親から植え付けられた誤った自己認識が跋扈しています。

“私など、価値が無いのだから、生きていると周りの邪魔なんだ”

“私は悪い事をたくさんしたから、それを残りの人生で償わなきゃいけない”

“周りの役に立たないのなら、死んでしまわないといけないんだ”

これらの意識の向こうに、母親がよく言っていた言葉が、透けて見えます。

「役立たず」

「価値が無いから死ね」

「お前が居ると邪魔なのよ」


延々と誤った価値観を刷り込まれた時子は、現在も“今はどうして周りに責められないのか”が、理解出来ません。彼女はあまりに否定され続けたから、“否定”以外の意見が理解出来なくなってしまっているのです。

そんな時子の日常は、意識がありさえすれば自責を続け、そこに終わりはありません。それでも生きてくれています。


僕は野菜を食べ、肉類や米も食べます。それが少しは助けになるとは言え、時子が満たされない気持ちの中でずっともがき続けている事実は、変わりません。僕には変えられません。

この間久しぶりに出てきた桔梗は、こう言いました。

「私達がこの子を救うなんて無理よ。記憶を消してあげる事は出来ないんだから」

それはその通りかもしれません。時子の日常で、辛い時間を交代してあげたり、彼女に足りない物を満たしてやる事は出来ますが、苦しみの根源となっている過去の記憶は、誰にも消せません。


今日の時子は夕方に眠り、3時間で目を覚ましてしまいました。僕はこれから二度寝をしようかと思っています。時子の夫の帰りは今日とても遅いので、おそらく彼女は表に出てこないでしょう。


ここまでお読み下さいまして、有難うございました。内容が繰り返しのようになってしまい、すみません。また読みに来て下さると嬉しいです。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎