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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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82話 カウンセリングルームにて・8






五樹です。こんばんは。この間のカウンセリングの様子を書いていきますね。


その日の時子は、全体として元気がありませんでした。だから彼女は、カウンセリングルームに行く前に寄ったレストランで、僕に交代しました。食欲が無かったようです。


食事は僕がしっかり出来たので良かったです。でも、その後カウンセリングルームに向かって、カウンセラーを前にしても、30分程は僕が喋っていたと思います。

時子が苦しさのあまり、表に出る事が少なくなった話、この小説の80話で話した、時子が見た悪夢の話など、たくさん喋りました。

その後時子が目覚めてから、彼女はまず、泣く事から始めました。

「先生…私の身には何も起こっていないのに、いつも辛くて仕方がないです…」

「私は、「死ね」と言われながら、幼少期と学生時代を過ごしました…でも、いじめより、家の方が辛かったです…いじめは一時痛いだけですが、家には私の居場所はありませんでしたから…」

「今、幸福な環境に居るけど、私の14歳位の人生計画は、全く違いました…」

「私は、誰にも受け入れられなかったから、“40歳頃には病をたくさん抱えていて、それが元で四畳半位のアパートで孤独死をするだろう”と、決めて生きてきました…だから、幸福が分かりません。そんなに急に生きる事を望まれても、私には分からないんです…」

「「生きていける」、「今より幸福になる」、「今より楽になる」と思ってみようとしても、私にはそんなの、想像も出来ません…精神的な幸福は、いつも受け入れ難いんです…幸福が何なのか、知らないんです…」

「もう危険なはずはないのに、いつもいつも緊張していて、くたびれてしまうんです」

最後の台詞に、カウンセラーは答えをくれました。ゆっくり優しく、カウンセラーは話します。

「脳には、扁桃体という、恐怖を察知する場所があります。そこが常に怖い怖いと働いていた人は、なかなか扁桃体に変化が現れず、扁桃体が休むには時間が掛かるんです…」

そこから、話はこう移っていきました。

「前回、時子さんは「ドーナツが好き」と言っていましたよね」

「ええ…」

「その時も、やっぱりその幸福を受け入れるのは大変ですか?」

「あ、いえ…なんでだろう、それは無いです…」

そこでカウンセラーは微笑んでこう言いました。

「肉体的な幸福の方が受け入れやすいなら、そこから始めてもいいんじゃないですか?」

「え、でも…そういえば先生、精神的な幸福は、なぜこんなに感じづらいんでしょうか?」

「精神的な幸福については、思考を経ないと感じられません。だから、ついついネガティブになってしまい、それで上手くいかないんでしょう。でも、肉体的な幸福も、充分役に立ちますよ」

「そうですか…」

「まずは、平穏な状態に心を保てればいいんです。肉体的幸福を自分に与えて気持ちが楽になるなら、今はそれでいいと思います。後々変化していくはずですから」

「そう、でしょうか…」

「ええ、そうです」

それから時子とカウンセラーは好きな食べ物の話をして、「それらを食べてみては」と言いながら、カウンセリングは終わりました。


よく、「食欲が無くて食べていないと、もっと具合が悪くなるから、しっかり食べろ」といった台詞をよく聞きます。食べる事は、肉体を満たし、精神を落ち着かせます。

もしカウンセリングルームに入って、開口一番「好きな物でも食べたらどうですか?」と言われたら、みんな怒るでしょう。でも、ここまで詳しく「食べる必要」について説かれれば、納得せざるを得ません。

今回の話は、もしかしたら皆様にも参考になるかもしれません。要は、「心を使うと辛いなら、体に幸福を与えてやればいい」という話ですから。

それに、食べ物だけに限った話ではなく、好きな物を見聞きしたり、人とお喋りをしても、同等の効果は得られるでしょう。幸福に向かう方法は、日常に満ちているのかもしれません。


それにしても、カウンセリングで時子はよく泣くようになりました。カウンセラーに素直な気持ちを言えるようになりました。良かったと思います。


これからもぼちぼちやっていきます。ここまでお読み下さり、有難うございます。また来て頂けると嬉しいです。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎